雷鳴の実力者〜猫の獣人に転生した最強中二病、魔王の元まで陰から勇者達を導かん〜

一筋の雷光

序章

第1話 最強を目指した先にあるもの

 僕はただひたすらに最強を求めた。


 何故か僕は物心ついた頃には、アニメや漫画みたいに魔法やスキルが無くたって、どんな理不尽にも負けない強さを努力すれば手に入れれると、確信していたのだ。


 何故最強になりたいかは覚えていない。


 まぁ今更きっかけなんて何でも良いんだ。だって、ただ最強になりたいという想いだけで今まで生きて来れたのだから。


 でも、現実は残酷だ。


 どんなに心身を鍛え抜いたとしても、数や化学兵器でゴリ押しされたら、結局素の力では一人で対抗することは出来ない。


 そんな世界僕が変えてやる!!


 この思いを胸に僕、影先かげさき 夢芽ゆめは、今日も体を追い込んでいる。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 高校生活3年間の中で特に目立たず、ありきたりな毎日を送って来ていた冬休みの日曜日の朝、いつものようにトレーニングが終わり、アニメを見ようとテレビを付けると、近所で銀行強盗が起きたとニュースで報じられていた。


 これは運命だ!!


 そう感じた僕は、すぐさま家を出る準備をして玄関に向かった。


「行ってきます!」


「夢芽! どこに行くの!」


 僕が出かける準備を終え、玄関で靴を履いているとキッチンからお母さんが話しかけてきた。


「いつものジョギングだよ」


「わかったわ。晩御飯には帰ってきなさいよ!」


「わかってるよ。それじゃあ、今度こそ行ってきます」


 こうして僕は、銀行強盗の現場に向かったのだった。


 何をするかなんて考えていない。


 ただ感じたのだ。


 今こそ修行の成果を発揮する時なのだと。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 僕は今、銀行の裏路地に居る。


 ここに来る時に、僕が道路からそのまま裏路地に来ようとしていると、警察の人に見つかりそうになったので、近くのマンションの屋上から銀行の裏路地に降りた。


 カバンを地面に置いた僕は、一旦配管を登り、少し上にある内部が少し見える窓から中の様子を見ることにした。


 中を見てみると、覆面をかぶって、銃や刃物など、何かしらの武器を手に持っている強盗が6人居た。強盗は定位置に立っており、ロープで縛っている人質や銀行員の事を見張っている。


「金を詰めれるだけカバンに詰めろ!」


 強盗班のリーダーらしき男が銀行員にそう怒鳴りつけた。


「わっわかりました」


「あ〜もうイライラすんな! 後十秒でその袋に詰め終わらねぇと、このガキを撃つぞ!」


 そう言う強盗班のリーダーらしき男の腕には、小さな女の子が抱えられていた。


「ママー。助けてー」


 女の子は足をジタバタさせながらそう叫んだ。


 だが、当然女の子の視線の先に居るお母さんも他の客と同じ様に縛られているので、どうすることもできない。


「10、9、……」


 男は、女の子の頭に銃を当てながらカウントダウンを開始した。


 それを見ている他の強盗達は、少し戸惑いを見せていた。


「すみません。すみません」


 そう言いながら、袋にお金を詰めている銀行員の人は、女の子を抱えている男に急かされて焦っている為か、さっきよりもお金を詰めるのが遅くなってしまっていた。


 くそっ、あの男。銃を人に向けているときの殺気は本物だ。警察が取り囲んでいるこの状況から逃げれる訳はないが、あの男は本当に撃つぞ。


 男の殺気を感じ、撃つことを確信した僕は、ひとまず状況を整理した。


「警察の人達は中の様子が見れなさそうだったし、このままだとあの女の子は撃たれてしまう」


 なら、どうする? 防弾チョッキも着ていない僕が行ったら確実に死ぬ。だが、女の子が撃たれることを知っていて、身動きが取れるのは僕だけ。そして、今から警察の人に状況を説明してたら間に合わないよな。


「5、4……」


 その間も女の子を抱えている男のカウントダウンは進んでいる。


「ヒーローっぽい事はしたくないんだけど、仕方ないか」


 僕は、排水管から降り、カバンに入れていた猫の面を被り、鉄の棒を持って、また鉄の配管を登って、少し上にある小さな窓を割って中に入った。


「なんだ!!」


 僕は鉄の棒を捨て、一瞬の躊躇いもなく、抱えられている女の子の元に走った。


 僕は、男の前まで行くと、いきなりの事で戸惑っている男の顔面を膝蹴りで蹴り飛ばし、男の腕から離れた女の子をキャッチした。


 その場に居た強盗全員が、慌てて銃を僕に向ける。


 それもそのはず、いきなり窓を割って高校生ぐらいの男子が単身で乗り込んできたのだ。


「お前は誰だ!」


 近くに居た一人の強盗が声を荒げて言った。


 僕は思わず笑みをこぼした。


 僕は、女の子をお母さんの元まで連れていき、銃を向けてきた男の方を向いて話し始めた。


「僕はただひたすらに最強を目指し、悪を狩る者」


 僕がそう言うと、挑発されたと思った強盗の一人がナイフを持ち、斬りかかってきた。


 だが、僕は柔道の投げ技を使い、軽く返り討ちにした。


「とろいね、ちゃんと日頃から運動しないと駄目だよ」


 一人を返り討ちにし、さらに決め台詞まで言ったことで気が緩んでいた。


 銀行に一発の銃声が鳴り響く。


「ハッ、調子に乗りすぎだ小僧」


 その声の正体は、さっき僕が膝蹴りで蹴り飛ばした男だった。


 周りに居たお客さんや銀行員の人達は悲鳴を上げたり、壁まで後ずさりしていた。




 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 なにが起きたかわからない。


 倒れて数秒後、次第に状況が掴めてきた。


 どうやら僕は、油断している隙に心臓を撃ち抜かれたらしい。

 

 いや! エイム良すぎだろ!!


 そんなツッコミもできそうにない。


 はぁー、僕の最強への道もここまでかぁ。


 今思えば、今までろくな学校生活を送ってこなかったなぁ。


 学校では、どんだけ頑張っても平凡中の平凡な成績しか取れず。運動に関しても、実力を隠しているため注目を集めるなんてことは無く。


 まぁこれは僕が勝手にやってたことだけど。


 そして学校にいる間も隙を見つけてはトレーニングをし、プライベートも全て武術の習得や鍛錬に当てて。


 これも後悔とかは別にしてないけど。


 はぁー。


 それでも、ここまで色々犠牲にしても尚、結局最強には届かずじまいと言う事実は辛いな。


 そんなことを思いつつ辺りを見渡すと、警察が銃声を聞いて突入してきていた。


「取り押さえろー!」


「君、大丈夫かい!」


 警察の人が僕の体に触れ、そう聞いてきた。


 だが、僕はもう声も出せない程意識が朦朧としていた。


「くそっ、さっきの銃声はこの子が撃たれた音か。おいっ! 早くこの子を救急車に運べ!」


「了解!」


 僕は、担架で救急車の中へと運ばれた。


 運ばれている間、途端に僕の脳に今の僕に一番合っている役割が浮かんできた。


 そう、今の僕はまさに物語序盤のピンチに遭う主人公達を命をかけて守るモブ、theモブ!!


 急にアドレナリンが出てきて、僕の脳がフル回転し始める。


 今の僕って、いわゆる転生ができるのでは?


 そう思った僕は、転生したら何になりたいか、なにをするかをその時が来るまで考え続けた。


 まず最初は、何になりたいかだよな。


 やっぱ力が強い獣人。それも猫の獣人になりたいな。


 次はなにをするかだが、これは決まっている。


 もし剣と魔法の世界に転生できたら、今度こそどんな理不尽にも負けない強さを手に入れてやる! そして、主人公のラスボスを横取りしてやる!


 色々考えているうちにその時は突然来た。


 ここはどこだ!


 突然目の前が真っ白になり動けなくなっていた。


「あなたの願いを叶えてあげましょう」


 頭の中に女の人の声が流れてきた。


 まさか、この声は神の声なのか?


 そう思った僕は、話せているかもわからない口を動かした。


「願いって何をだ?」


「転生ですよ。あなたの生き様は大変面白かったので、褒美にもう一度チャンスを与えましょう」


 神らしき人がそう言うと、目の前が暗くなり、僕は意識を失った。


 こうして僕は、最強になりたいという強い意志を宿したまま転生を経験することになった。

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