第36話 目覚めの予兆
「なるほどね♪」
鈴華は何故か上機嫌であった。そして彼女の足元には意識を失った黒装束たちが積み重ねられている。
これを全て彼女がやったのだ。彼らが自害する猶予も与えず、一撃で。
「……ありえないッ……我らがこんな女一人に、……それもただの火消し如きに!」
「おっと。火消し如きにとは心外だね」
一人は辛うじて意識の糸を手放さなかったのであろう。
鈴華は黒装束の元へ歩み寄り、顔を隠す布を捲り上げた。
「確か君たちは異合混合隊って名乗ったよね? 人間と人外の混血たるデミは限りなく珍しい。けれど君たちはもっと稀有な存在みたいだ。何たって妖魔と他の人外の混血なんだから」
「ッッ……!」
捲り上げた布の下にあったのは一本のツノ。そして妖魔の顔には鱗がビッシリと生え揃っていた。
鱗だけでない。彼の掌には水掻きが、首の辺りには鰓まで備わっている。
「君は差し詰、妖魔×魚人と言ったところかな? それで、そこの彼はゴーレムで、そっちの彼女は蛇神かゴルゴン辺りなんだろうね」
頭目たる蒼恋を除く羅刹衆の最強部隊は、かつて鬼丸が率いていた夜行一番隊である。けれども、それは正面を切った闘争に限った場合のみ。
対して異合混合隊の取り柄は、異なる種族の血を引いたが故の手数の多さであった。
加えて隊内での連携も高い水準で完成されており、多対一の戦況など、まさに彼らにとっての十八番。本来であればこうも容易く敗れる一団ではないのだ。
「それで最初に私たちを襲った彼は、」
「……あぁ、そうだよ……隊長は天使と妖魔の混血者さ」
彼が駆使した「負術────黄泉送リ」は妖魔の力というよりも、天使の力に依存する力であり、触れた相手の寿命を奪い取るというものであった。
指が一本触れるだけでも五十年。それが五本触れたのだから、単純計算でも二五〇年の寿命が、周哉と鈴華から奪われる筈であったのだ。
「これまで隊長に触れられて生きている奴なんていなかったんだ。なのに、なのに……ッ! 何なんだよ、お前らはッ!」
鈴華の口元に浮いたのは、うっすらとした笑み。そこで彼女は鋭い八重歯を覗かせる。
「ふふっ。さぁ、一体何者なんだろうね、私たちは?」
きっと鈴華はその答えを知っているのだろう。
だからこそ、もう一つの確信も抱いていた。
「けど、君たちの隊長が触れてくれたおかげだよ。そのお陰で私も一つの確信が持てたんだ」
周哉に内包されるのは妖魔と人工吸血鬼(アークパイア)の力────加えて三つ目の因子が目覚める瞬間は、そう遠くないのであろう。
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