第18話 小さな花火
「スン……スンスン」
鬼丸も鼻を効かせながらに、間合を図りなおした。
(何でこの小僧は俺たちと同じ炎の力が使えてやがる? それに何だ、この匂いは? 人間とアークパイア意外にも、ナニカ別なもんが……)
それも随分と昔に嗅いだことのあるような────
(まぁ、何だっていいか)
鬼丸から見て、今の周哉はある種のゾーンに入った状態にある。
瞳はギラギラと輝き、痛みも恐怖も気にならなくなる程の集中力をみせてくれた。
「……もともとポテンシャルはあったんだろうな。……デカい方の無茶が、感情の起爆剤か?」
この辺りの灰を、灰人に変えて多対一の戦手を取ったとして。ただの傀儡たちではデコイ役が精一杯か。
中途半端な蒼炎を灯したところで、色鮮やかな血に鎮火されてしまう。
詰まるところ、小細工が意味をなさないのだ。
「なるほどな……こいつは随分とヒリつくじゃねぇかッ!」
鬼丸がクツクツと笑いを漏らし、そして最後には噛み合わせるように白い歯を剥いた。
大手を広げ、凶暴に吠える。
「もっと火力を上げなッ! 第二ラウンドのゴングを鳴らそうじゃねぇかッ!」
「お前なんかの喧嘩勝負に付き合う義理はないッ!」
そこからは問答無用の殴り合いであった。
拳と拳が交わり、二色の血飛沫が彩る。BGMは骨と骨がぶつかり合う衝突音か。互いのボルテージはさらに加速する。
「ハハッ! まだまだ、熱くなろうぜッ!」
オリジナルの吸血鬼(ヴァンパイア)には敵わずとも、妖魔である鬼丸自身も相応の再生力は備えている。
互いが壊れた先から傷口を治して行くのだから、両者が次に「一撃必殺」欲するのも、必然なことであった。
「蒼炎・モードBURSTッ!」
「羅刹────夢想乱舞(むそうらんぶ)ッ!」
互いの熱が空気を限界まで歪ませる。
周哉は血のグローブで拳を覆い、鬼丸はその拳を蒼炎で包んだ。両者の拳は正面からぶつかり、逼迫。
「……ッ⁉」
そして、周哉の方が弾かれた。あまりの高温に晒された結果、血のグローブが特異
性を喪失したのだ。
「さぁ遺言を選びなッ! 死に際くらい、面白れぇことを言ってみせろよッ!」
だが、弾かれる周哉の双眸は尚もギラついていた。
不安定な体制を、パルクールの容量で強引に立て直し、こちらをキツく睨む。
「……僕は言ったよな? お前の喧嘩勝負に付き合う義理はないって」
周哉のアークパイアとしての練度は、他の平均的な特務消防師団員に比べ、遥かに劣っている。
総合的な能力でも、造形でも、操作できる血液量でも、その全てが半歩劣っているのが現状であった。けれど、ごく少量の血液を操作する精密性ならば────
「悪いけど、僕には助けるべき人たちが待っているんだッ!」
砕け散ったグローブの破片は極めて小さな、血の滴へと戻る。
「行けッ!」
操作された滴たちは、弧の軌道を描き、着物の裾へと着弾した。
そして、既に特異性が失われてしまった紅血は、蒼い炎の火種にもなり得るだろう。
「イメージは花火だ」
周哉が指を弾くと同時に、「紅」と「蒼」が混じり合い、「紫」の爆発が鬼丸の全身を吞み込んだ。
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