カレン ~episode 18~

 「どうしたっていうのよ。」

橘くんと別れて二週間が経ったある日、愛莉が学校のベランダに私を引きずり出して言った。

「劇の練習中とかはいつも通りだからあんまり気にしてなかったけど、ここ最近いっつもあたしや菫と一緒に帰ってるよね?喧嘩でもしたの?」

私は反応に困ってうつむいた。愛莉や菫には言うか迷っていたのだが、言って秘密を抱えさせるのは気が引けて、結局言わないままにしていたのだ。その隣で、菫も頷きながら心配そうに私を見つめた。

「喧嘩ならさっさと話し合って解決しちゃいなさいよ。文化祭だって一緒に回った方が楽しいだろうし。ね?」

あんたに言われたくない、と少し思った。喧嘩したら有無を言わずさっさと別れちゃうくせに。でもそんな気持ちは一瞬で消えた。愛莉がどれだけ私を大事に思ってくれているかは、この間盗み聞きした件も含めて、良く分かっている。

「あのね」

私は思い切って口を開いた。この二人に隠し事なんて、これ以上続けられる気もしない。

「別れたの。」

沈黙。愛莉と菫が状況を飲み込めずにいる。

「えっ?だって、え?あんた達あんなに仲良かったじゃない!」

愛莉がびっくり仰天したように言う。

「どっちから切り出したの?」

「私。」

菫の問いに、私は答える。

「まあ、そうでしょうけど…。でも、なんで?好きじゃなかったの?」

愛莉との会話を盗み聞きしたことを話すか迷ったけど、それは言わないことにした。愛莉が謎の罪悪感を持ってしまっても困る。それに、『あの子』の話を聞きたくもない。

「だってさ、橘くんってすっごく優しいじゃん?優しすぎて素が出せないっていうか、疲れちゃうんだよねー。」

なんでもなさそうな感じを必死で装って私は言う。二人は顔を見合わせた。

「橘はそれで良いって?」

「うん。納得してくれたよ。私が文化祭終わるまでは普通に接してほしいって言ったら、それも受け入れてくれた。」

愛莉が何か言おうか迷った末、頷いて私の手を握った。

「花蓮がそう選択したなら間違ってないはず。これで花蓮も、独身貴族の仲間入りね。」

「結婚してた訳じゃないんだけどね。」

私は笑って答えた。菫も私に向かって微笑んだ。

「文化祭は、女子三人で楽しみましょ。」

「うん!」

私は頷いて微笑み返した。

「さーて、劇の練習にももっと気合入れていこ!」

私が言うと、二人がバシッ、バシッ、と私の背中を元気づけるように叩いた。恋愛が上手くいかなくったって、私は周りの女の子たちには恵まれているんだから。私はそう思って、にっこり笑った。

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