カレン ~episode 16~

 「玲奈…?」

私は恐る恐る玲奈の顔を覗き込んだ。

「今ね、真綾はショックが大きすぎて、自分でも何言ってるか良く分かってないんだよ。あの人いつも、ため込みすぎの考えすぎだからさ。だから今のは許してあげて、忘れた方が―」

私の言葉が終わるか終わらないかのうちに玲奈は真綾そっくりの動きで踵を返すと、ドスドスと階段を上って行った。

「ちょっと、玲奈!今はそっとしといてあげなよ!」

しかし、玲奈は完全無視で真綾の部屋の扉をバタン、と開け放ち、入口に仁王立ちした。私が慌てて追いついて部屋を覗き込むと、真綾は一番大きなクマのぬいぐるみとティッシュペーパ―ボックスを抱きかかえて、泣きじゃくっていた。

「玲奈、今はいったん―」

「そうよ!」

突然、玲奈が真綾に向かって吠えた。真綾が驚いたように、ビクッとする。

「そうよ、分かんないわよ、真綾の気持ちなんて!努力する人の気持ちなんて、これっぽっちも分かんないわよ!何か一つのことにひたむきに挑戦し続けるなんて、できたことないわよ!真綾はさ、自分になんの取り柄もないって言うじゃん?花蓮は賢くて容量いいし、私は器量が良くてスポーツ万能なのに、自分には何にもないってよく言うよね?でも違うよ、真綾はさ、努力できるっていう才能があんの。人よりも!誰だってさ、そんなに頑張れるわけじゃないよ。『弓道の才能ない』ってはっきり言われて、それでも努力し続けられる人なんて、この世に何人いると思う?少なくともね、私にはそんな根性ないよ。だからね、ずっと羨ましかった。真綾の、バカみたいに真面目で、バカみたいに素直で、バカみたいに頑張り屋さんなところが!だから私は、真綾に諦めてほしくない。私みたいなつまんないやつになったらダメなの。神様からもらった、努力家って才能を、無駄にすんなって言ってんの!」

今度は玲奈が息を荒げたまま真綾を睨みつけた。私は度肝を抜かれて声も出ない真綾を見て、自分の口も半分開いていたことに気が付き、慌てて閉じた。沈黙の中、真綾がひとつしゃくりあげた。涙はもう、完全に止まっている。

「玲奈…。」

しばらくして真綾がそうつぶやくと、玲奈はわっと泣き出して真綾に突進した。そのまま真綾に抱きつくと子どものようにわんわん泣きだした。真綾はすぐにいつものお姉ちゃんの表情になって玲奈をぎゅっと抱きしめると、頭をなでながら言った。

「ありがとう、玲奈。そうだよね。私、頑張る。」

なぜか私の目も涙で潤んできて、私はシャツの袖で涙をぬぐった。

「二人とも、バカなんだから。」

私もそう言って二人に近づき、二人まとめてぎゅっと抱きしめた。真綾からも玲奈からも似たような優しい香りがして、私はにっこり微笑んだ。

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