カレン ~episode 6~
「なに」
真綾がノートから顔を上げて言った。
「なにって、なにが?」
向かいの席に座って真綾の顔を覗き込んでいた私は素知らぬ顔で言った。
「さっきからずっと私のこと見つめて。言いたいことがあるなら、いいなさいよ。」
「うーん、別に急用じゃないから、続けて。」
「続けてって言われてもね…。」
真綾がため息をつくのと同時にバタン、とリビングの扉の開く音が聞こえて、玲奈が部屋に飛び込んで来た。
「真綾、帰ってたの!」
その勢いのまま私の隣に座ると、キラキラした顔で真綾を見つめた。
「で、デートはどうだった?」
「ちょっと!」
私は玲奈を睨みつけて大きな声をあげる。
「なによ。」
「私はちゃんと真綾の勉強が区切り良いとこいくまで待ってようと思ってたのに、なんで聞いちゃうわけ?」
玲奈も私を睨み返した。
「そんな目の前で見つめられていたんじゃあ、五分で解ける問題も三十分かかっちゃうよ!」
二人が睨み合う。バチバチと目線がぶつかる音が聞こえてきそうだ。
「あんたたちねぇ」
真綾がため息をついた。
「目力強い者同士で睨み合ってたって、周りのものが焦げるだけでしょう。」
「「真綾には言われたくない。」」
二人が綺麗にはもった。
「二人、ほんとは仲良いでしょ。」
真綾が言う。そして、三人同時に吹き出した。
「さっすが姉妹。」
私は笑った。それから真綾の方を向く。目が合って、真綾が笑った。
「勉強は後回しにする。それでなに?デートの話?ねえ、私たち付き合ってもうなんなら二年経つんだよ?毎回そんな大騒ぎすることないじゃない。」
真綾が首を小さく横に振った。
「だって」
玲奈が不貞腐れたように言う。
「真綾と謙人くんの関係ってどれだけ経っても付き合って三か月のカップルみたいなんだもん。」
私は賛同して頷く。真綾はそんな私をじっと見つめて、首を傾げた。
「花蓮、あなた何か別のこと話したいんじゃない?」
私はドキッとする。まだ何も言ってないのに。
「なんかそわそわしてるよね。」
玲奈も私に鋭い視線を投げかけて言った。私は二人の顔を交互に見る。やっぱり姉妹に隠し事は出来ない。私は長く息をはき出した。
「好きな人が、出来たかもしれないの。」
私は思い切って言って、目をぎゅっと瞑った。沈黙が訪れる。私は恐る恐る目を開く。
「うっそ…。」
「あの、花蓮に、ついに春が…。」
玲奈と真綾がゆっくり顔を見合わせて、それから歓声をあげた。
「やったね!初恋じゃん!」
「二人とも初恋遅すぎ。」
玲奈が私と真綾を睨みつける。
「玲奈が早すぎるのよ。」
私は言った。好きな人が出来たってだけで、こんなに喜んでくれるとは。
「で、誰?同じクラス?何部?どうして好きになったの?写真ないの?」
真綾が畳みかけるように言う。完全に勉強のことは忘れてしまったようだ。私は笑った。
「えーっと、名前は橘颯真。クラスは違うんだけど、なんか色々あって仲良くなって、彼、すごく優しいの。野球部で写真はないけど、笑ったらブレーンみたい。」
「ブレーン?」
玲奈が首を傾げる。
「ほら、前に観た映画、『プリティ・イン・ピンク』の。」
「「ああ!」」
二人同時に納得した。
「キュートな感じなのね!」
「うーん」
私は橘くんの顔を思い出して言った。
「真顔だとどっちかっていうといかつい。背は謙人くんや亮くんに比べたら低いけど、小さくはないって感じ。」
「告白するの?」
真綾がキラキラした顔で聞く。
「しないよ!最近仲良くなったばっかりだし、それに住む世界が違うの。向こうは陽キャで、こっちは陰キャで…。だからまず、友達になりたい、と思ってる。」
私はそう言って顔を上げた。
「どうかな…?」
これを聞いて真綾が肩をすくめる。
「住む世界が違う云々はちょっと何言ってるか良く分かんないけど、でも友達になるのはすごく大切なことだと思う。」
玲奈も隣で頷いた。
「花蓮と友達になったら、皆花蓮のこと好きになるもん。」
私は人に嫌われるタイプではない。でも好きにまでなられるかと言ったらこれはまた別の話だ。それでも私は嬉しかった。姉妹と恋バナを出来る日が来るとは。
「ねね、明日真綾の部活もないし、花蓮の部屋で寝ちゃダメ?夜の女子会したい。」
玲奈がワクワクした顔で言った。真綾を見ると、同じような表情をしている。
「いいよ。」
私は笑いながら答えた。
「「わーい!」」
二人が子どものように無邪気な顔で歓声をあげて私に抱き着いた。
長い夜になるぞ、と私は思った。
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