レナ ~episode 2~
結局亮のことは駅に置いて来てしまった。駅でいわゆる『キラキラ系女子』に捕まったからだ。好きな人が可愛い女の子たちに囲まれているのを好き好んで見ている人なんているわけがない。だから私は颯爽とその輪をすり抜け、朝から嫌なこと続きでイライラしながら登校することになったのだ。
私は教室の前でため息をついた。と、後ろから少し息を弾ませた声が聞こえる。
「置いてくなって。」
私はぐるりと目を回した。この声は、無視してもいい声だ。私に相談があるとか言ったくせに、他の女の子とイチャイチャしだした罪人の声が聞こえる。
「それは誰ぞ。何かはさも語らひ給ふ。」
私はつん、と言い放つ。亮が笑った。
「突然の枕草子かよ。えへん、『兼城の亮侍ふなり』。」
私はそれに答えたことも気に入らず、そのまま教室に入った。
「おーい、無視すんなよ。席近くなったんだし、仲良くしようぜ。」
そうだった。私は亮に言われて思い出す。昨日、席替えをしたんだった。私の席は亮の斜め後ろ。家で二人にルンルン気分で報告したことを思い出す。
私と亮が同時にそれぞれの席に着くと、教室中がざわめき立った。理由は言われなくても分かる。私は前に座る女の子の肩を叩いた。
「おはよう。」
亮の隣の席、私がなりたかった席に座る女の子が、ゆっくりと読んでいた本から顔を上げ、私を振り返った。ホリの深い顔立ち、夢見るような色素の薄い透き通った目、豊かな茶色の髪の毛をカチューシャで留めた、お人形さんみたいな女の子だ。
「私、栗原玲奈っていうの。席があなたの後ろで。」
「知ってるわ。」
女の子がふんわりと微笑んだ。
「あなた、有名だもの。とっても美人って。」
「そう、かも。」
隣で亮がふき出した。
「認めるんだ。」
「どうして笑うの?」
言い返そうとした私よりも速く、女の子が言った。
「事実なのに。あなたはそうは思わないの?」
「いや、思います、けど…。」
淡々と尋ねる彼女に度肝を抜かれて亮が大人しく言った。
「不思議な人ね。」
肩をすくめて言う。
「あ、ちなみに私は―」
「知ってる。如月麗華ちゃん、だよね?」
「ええ。」
麗華ちゃんが嬉しそうに言った。
「私の作品、見てくれたの?」
「作品?」
「あら、違うの。」
麗華ちゃんの表情が少し曇った。
「てっきり、私の絵画作品が入賞したから、それで知っていてくれているのかと…。」
「あ、あれか!あのお花のやつだよね?すごく上手だった!」
「ありがとう。」
麗華ちゃんが微笑んで言った。
「麗華ちゃん、私のこと美人で有名って言ってたけど―」
「麗華、でいいわ。」
「あ、じゃあ、麗華。私のことも、玲奈でいいよ。」
「分かったわ。」
「そう…、って言ってたけど」
私は気を取り直して言った。あんまり人と話しているところを見かけたことがなかったけど、案外親しみやすい人だ。
「そういうことでなら麗華の方が有名だと思うよ。」
「私が?」
麗華ちゃん、いや、麗華が心底びっくりしたような表情で言った。大抵の女の子は『そんなことないよー』と言いつつ、心の中では『当たり前じゃない』と思っているのが見て分かる。でもこの子は本気で驚いていそうだ。面白そうな子だなぁ、と私は思った。
「ちわっす」
少し控えめな声が聞こえて、三人同時に振り返った。亮と同じサッカー部の男の子が一人、少し気まずそうに私の隣、亮の後ろの席を指さしながら言った。
「俺、この席なんだ。よろしく。ってかこの席替えどうなってんだよ。この美形三人が同クラってだけでも噂になってたのに、クラス中のやつらが騒いでたぞ。」
「三人?」
麗華が言った。
「え?うん。兼城と、栗原さんと、如月さんの三人。」
「ほらね。」
私は言った。
「へえ、そう、ふうん。」
麗華が考え深げに言った。
「皆、不思議な目をしているのね…。」
「いや、不思議なのは麗華の方だと思うよ。」
私は笑いながら言った。最高の席替えだと思ってたけど、これは期待していた以上かもしれない。私に女の子の友達ができるかもしれないよ、お姉ちゃん。私は心の中でそう思った。
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