第12話 動物じゃないです、人間です!

「すいません、これください!」



 レジにたどり着くと、二人を地面に下ろし、ラビがかぶっていたキャスケットとハルのかぶっていた麦わら帽子を一度頭から剥ぎ取ってレジの上に置いた。

 一部始終を見ていたレジの女性は、笑いながらそれを受け取って会計をしてくれた。



「妹さん? うさぎさんの耳つけてかわいいわね」



 そして声をかけてくれたのだが、その何気ない言葉に一瞬ギクッとする。

 大丈夫、怪しまれてるのではなく単純に珍しいものの興味だ。

 素直に適当に流せばいい。



「ありがとうございます、みんなで耳つけて出かけるって聞かなくて」



「いいじゃないの、このくらいの年齢の女の子はこういうの好きよね。あら、しかもその耳動くのね、まるで本物のうさぎさんみたいだわ」



 店員さんはラビの耳を見ながら嬉しそうにそう言った。

 その言葉を聞いた俺は、ギョッとして慌ててラビの方に顔を向ける。かわいいという言葉が嬉しかったのか耳をぴょこぴょこ自分の意思で動かしていたのだ。



「ラビ、ほんとのうさちゃんだよ!」



 しかもそんな爆弾発言をしながら。

 キョトンとしている店員さんの顔を見て、俺は大慌てで口を挟む



「やだな! うさぎが好きすぎて、この子がうさぎになったつもりでいるんです!」



 俺はぎこちない笑いでそう誤魔化したが、ラビの方が臍を曲げてしまう。



「つもりじゃな……もがっ」



 もうその先は聞かなくても分かるので、早めに口を塞ぐ。



「人間です! この子人間ですから! 本当に!」



 そして俺は店員さんに大慌てでそう告げると、あははと笑いながらレジに表示された金額分のお金をきっちりレジカウンターの上に置き、商品とラビとハルを抱えてその場を足速に去った。



「ラビ、お店のものを勝手に外に持ってったり、自分のこと動物と言ったりしたらダメ」



 店の外に出るなり、ハルとラビに買ったばかりの帽子をかぶせながら優しくそう注意したのだが



「なんで?」



 さっきまで動物だったラビに、人間の常識を伝えても理解できるわけがなかった。

 仕方ない、後でゆっくり説明しよう。

 それより、帽子のコーナーに置いてきたチワとミケのところ行って合流して、今日の本来の目的の食料品買いに行かないと。

 俺は元の帽子コーナーの方へ歩いて行ったのだが、そこにいたのはチワだけだった。



「チワ、ミケはどこいった?」



 そう尋ねるとチワは「あっちに……」と言いながらくるりと後ろを振り返って指差す。

 すると五メートルくらい先のところでしゃがみ込んでいるチワの姿が見えた。

 チワの側まで行って見ると、そこはケーキ屋だったようだ。



「ミケ、何してるんだこんなところで」



 突然声をかけられて驚いたのか、ミケはビクッと体を震わせるが……。



「別に、これが綺麗だなって思っただけ」



 俺の方を無表情で振り返り、ホールのショートケーキを指差して答える。

 するとミケが指差したものに興味を持ったラビが質問した。



「これなぁに?」



 説明はいくらでもできるが、詳しく説明してもわからななそうなので、こう答えた。



「甘いお菓子」



 そしてシンプルなその言葉で、ラビは納得した。

 本当はその説明は大雑把すぎるが、それ以上の説明をしてもラビにはわからないだろうから、このくらいで十分だ。返答はシンプルに。

 しかしその返答で今度はチワが反応してしまい、食べたそうなキラキラした表情でケーキと俺を交互に見比べた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る