第75話 サメと一緒に

二階堂だ。

 サメと楽しく命のやり取りをしていたのだが、息苦しくなってからここが水中だということを思い出した。

 当たり前のことだが、人間は呼吸しなければ死んでしまう。だが私が海面に出れば、これは好機だとサメは大口を開けて私に向かって来るだろう。なんなら私が海面に出るのを待っている節さえある。狡猾なサメだ。

 しかしながら、ピンチはチャンスという言葉を知っているだろうか?今ここで実例を見せてあげよう。

 私は海面に向かって上昇し始めた。この程度の深さなら減圧の必要は無さそうだ。多分大丈夫だろ。まぁ、死んだら私が愚かだったということだ。別に悔いは無い。

 私が上昇していると、案の定サメの奴が大口開けて突っ込んできた。想定内だ、想定内。私はヤツをギリギリまで近づけて、タイミングを見計らって方向転換。奴の口目掛けて渾身の力を使って突撃した。

 ギューン‼と漫画なら擬音が付くぐらいのスピードで、人間魚雷となった私はサメの口の中に自ら入っていく、その際サメの奴は大慌てで口を閉じようとしたのだが、すでに遅く、私の体はスッポリとサメの体内に収まった。

 サメの体内はベタベタしていて生臭いは少しぐらいなら呼吸出来る様で、私は深呼吸を一つした後に、デタラメにサメの体内を殴り始めた。


“ドッドドドドドドドドドドドドドド‼”


 デタラメに早く殴るので、削岩機で岩を崩している様な音が鳴る。もちろん永遠に殴り続けられるわけは無いが、私が疲れて動けなくなるのが先か、サメが絶命するのが先か勝負である。

 流石に体の中を殴れているのは堪えたのか、口を開けて私を追い出そうとするサメ。だが私は出ていくわけ無い。出て行く時はこのサメが死ぬ時だと決めているからだ。

 3分間殴り続けた私だったが、流石にロクに息も出来ない状態でフルパワーのラッシュは疲れる。すでに限界は超えているが、限界の更に限界を超えるのも悪く無い。

 と思っていたのだが、私はあることに気付いて殴るのをやめてしまった。私が中に入っているサメの体が段々と沈んで行っているのである。

 安堵と残念な気持ちが3:7ぐらいで押し寄せてきた。


「そうか、いつの間にかこと切れていたか。お前は強いサメだった。安らかに眠れ」


 私は強敵に別れの言葉を送った。

 さて、戦いが終わったとなると早々にサメの体から脱出しないといけない。

 このまま外に出るのは危険そうなので、私は変身を余儀なくされた。


「変・身‼」


 ビカッと光り、いつもの変身を遂げる私。もちろん変身バンクなんてカットである。

 私は狭いサメの中で正拳突きの構えを取り、サメの亡骸に思いっきりぶち込んだ。


「二階堂流活人拳・正拳突き‼大爆破‼」


“ドゴーン‼”


 殴る際にサメの体を爆発させ、その勢いで一気にサメの体を抜けて、海面までギューン‼と一気に上昇する私。流石にこの水深なら普通は減圧が必要だろうが、魔法少女の服はこの世の理に反した万能服なので大丈夫。何で大丈夫かは知らないが、とにかく大丈夫らしい。


“ザパーン‼”


 トビウオの様に跳ね上がる私。久しぶりの地上の空気は美味しい。

 空中でふと砂浜の方を見ると、そこには大きなイカが見えたので、このまま大連続狩猟と洒落込めるのかとワクワクした。

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