第45話 黒歴史

 木隠 みどりです。

 二階堂さんと火種ちゃんの戦いを見ていますが、私達とは次元の違う戦いに、ただただ呆然とするのみです。


「師匠———————————‼」


「バカ弟子が――――――――‼」


 激しく殴り蹴り合う二人、それにしても黒くなった火種ちゃんはどうしてココまで強いんでしょう?


「どうして火種があそこまで強いのかって顔しているな?」


 チャガマさんが私の方を見ながら、私を見透かしたようなことを言ってきました。

読心術でも使えるんでしょうか?だとしたら怖いです。


「あの悪落ちモードは、破壊と殺戮だけを求める強化形態。つまり戦いに超特化した形態だ。ただあまりに強大な力を得た為に、使用者の精神を蝕んで、あのようなバーサーカーになっちまうってことだ」


 えぇ、聞いても無いのに喋り始めた。参ったな、私チャガマさん苦手なんですよね。


「実はここだけの話、二階堂も現役時代にアレと似た形態になったことがあるんだよ。やはり弟子と師匠って似るもんだな」


 あっ、そうなんだ。二階堂さんもあんな感じになったことあるんだ。


「あの時は大変だったなぁ」


 あれ?もしかして回想に入る感じですか?



九年前


 どうもチャガマだ。まさかこの三人が倒れ伏すなんて悪夢でも見てるみたいだ。


「どうしたもう終わりか?」


 敵の蝙蝠人型の魔闘拳士バッドリーはニタリと笑い、倒れた三人の魔法少女をあざ笑っている。

 グレンもブリザードもプラズマも強い魔法少女だが、たまにチート級の敵が出てきたりするんだよな。

 バッドリーは魔力を拳に込めて殴ることにより、魔法そのものを無効化することの出来る厄介な敵である。この手の敵にはグレンが相性が良さそうだが、バッドリーが新たに繰り出して来た超音波のせいで苦しみ。とうとう正拳突きをまともに受けて倒れてしまった。

 OB呼んだ方が良いかな?すぐに来れるとなると、あの酔っ払いか。

 だが俺の心配を他所に、グレンこと二階堂はフラフラと立ちあがった。

 その目には未だ闘志の炎が灯っていたが、体は限界の様でガクガクと震えている。立っているのがやっとの究極系がコレだろう。


「フー、フー……よし、続きをやろう。」


 いやいや無理ですやん。どんだけ精神力が強いんだよ。魔法少女的にはここはか弱く倒れてる方が良いって。


「二階堂倒れとけって、今、メチャクチャ強いOB呼んでやるから」


「うるさい‼まだ私は立てるし‼拳も握れる‼黙ってろ‼」


 もう熱いって、そういうのは戦隊とか仮面のヒーローとかのノリだって。

 バッドリーは立ちあがった二階堂を興味深げに見ている。強者の余裕という奴だろうか?


「ほぉ、私にあれ程やられておきながら、まだ立てるとは。その根性だけは認めてやろう」


「貴様からの認証など要らん‼いいから掛かって来い‼」


「それじゃあ遠慮なく行くぞ‼」


 バッドリーは翼を使い空を飛んで二階堂に襲い掛かる。そしてある程度、二階堂に近づくと超音波攻撃を仕掛けて来た。

 耳をつんざく様な爆音が周囲に響いて、俺も堪らず耳を塞ぐ。

 二階堂は苦痛に顔を歪めながらも、空中に居るバッドリーに右拳を放つが、バッドリーはその拳を易々と左手で受け止めた。


「どうした?腰が入ってないぞ。」


 バッドリーはそのまま左手で二階堂の体を持ち上げ、地面に何度も何度もバンバンと打ちつけた。

 いやいや、これあまりに凄惨じゃない?


「はははっ‼さっきの勢いはどうした♪」


 楽し気なバッドリー。あまりのサド気質の性格の悪さに俺はドン引きだよ。

 このままじゃOB呼ぶ前に二階堂が死んじゃうよ。

 と、思っていたんだが、何やら二階堂の様子がおかしい。赤い魔法少女の衣装が段々と端の方から黒く変色してきたのである。

 そうして全てが黒く変色すると、二階堂はカッと目を見開いて、バッドリーの左手を左手で掴み返し、そのまま握り潰した。


“バキッ‼”


 乾いた骨の折れる音が聞こえ、バッドリーの左手からはプシュ―ッと血が噴き出る。


「ぐああああああああああああ‼」


 バッドリーは折れた左手を右手で押さえながら悲鳴を上げた。

 黒く変色した二階堂はその様子を無感情に眺め、首をコキリと一回鳴らした後、ひたすらにバッドリーを殴り始めた。

 その動きは明らかに二階堂流活人拳の動きでなく、ただ単純な暴力がバッドリーを襲っていた。

 十数分バッドリーだった物を殴りつけると、ようやく気が済んだのか二階堂は殴るのをやめ、天に向かって咆哮した。


「ウォォオオオオオオォオオォオオオオオオォオオ‼」


 絵面的に魔法少女っぽさが皆無で、俺はガタガタと震えていた。

 勝負には勝ったが、今後の魔法少女の方針的には暗礁に乗り上げてしまったと言わざるをえなかった。





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