【60万PV感謝❗❗】一つ年上の美人先輩は俺だけを死ぬほど甘やかす。

結乃拓也/ゆのや

第1章―1 【 美人先輩とお見舞い 】

プロローグ  美人先輩は年下の男の子を堕落させたい 

 彼女から見た俺は、言ってしまえば友達の弟だった。


『あ、こんにちは』

『……うす』


 たまに彼女が家に遊びに来るとぎこちない会釈を交わす程度で、部屋にすぐ逃げてしまう俺は彼女とまともに会話すらしたことがなかった。


 俺も俺で、彼女のことは姉の友達としか認識していなくて。


 要するに、俺と彼女はお互いに顔見知りではあるけれど、しかし会話するほど仲睦まじい関係ではなかった。


 けれど。


 あの日を境に、俺と彼女のそんな関係が変化していって。


 少しずつ。


 少しずつ。


 俺に微笑みかけてくれる彼女に惹かれていって。


 そして気がつけば。


 俺は、彼女といつの間にかこんなことをする関係になっていた――


「ふふっ。どう? しゅうくん。私の膝枕の心地は?」

「ふぁぁぁぁ」


 夕陽が窓辺からリビングに差し込む。まだ慣れない彼女の家で、俺は言葉にし難いほど極上な枕を堪能していた。


「さ、最高です」

「ならよかった。甘えたい時はもっと遠慮せず甘えてね。どうやら私、しゅうくんを甘やかすのが好きみたい」


 頭上で鈴が転がるような声が聞こえた。いつ聞いても安寧と心地よさをくれるその声音は、今日は年下の男の子を揶揄からかって楽しんでいるように聞こえた。


「甘やかすのが好きなんじゃなくて、俺を揶揄うのが好きなんじゃなくてですか?」

「むぅ。そんな意地悪言うしゅうくんにはもう膝枕してあげないよ?」

「嘘です嘘! もっと先輩に甘えたいです!」

「素直でよろしい。あ、でも先輩呼びは嫌だって言ったよね? 私のことはなんて呼ぶんだっけ?」

「あ、緋奈せんぱ……」

「うーん?」

「……緋奈あかなさん」

「むぅ。やっぱりまだ名前で呼ぶのは恥ずかしいのね」

「どうか勘弁して頂けないでしょうか!」

「私はキミのカノジョなんだから本当は名前で呼んで欲しいけど、顔を真っ赤にする可愛いしゅうくんに免じて今はそれで満足してあげます」

「でもたまには名前で呼んで欲しいな」

「ハードル高いなぁ!」


 先輩の甘い香りが絶えず鼻孔をおかし、心臓は今にも爆発するんじゃないかと錯覚するほど早鐘を打っている。


 憧れの先輩に膝枕をしてもらっている状況を、一ヵ月前の俺は想像できただろうか。いいや、絶対できてない。そもそも先輩とこんな風に甘い時間を過ごせること事体、想像すらしていなかった。


「しゅうくん。今晩は何が食べたい?」

「え? いや、俺あと一時間くらいしたら帰るつもりだったんですけど」

「だーめ。今日はまだ帰してあげない。まだまだ今週頑張ったしゅうくんにご褒美あげないと」

「膝枕でお釣りがくるんですけど……」

「こんなのしゅうくんがお願いするならいくらでもやってあげるわよ。ほら、しゅうくん。今晩は何が食べたい?」

「超甘やかしてくるじゃないですか」

「だってしゅうくんともっと一緒にいたいんだもん」


 そんなこと言われて断れる男子がこの世にいるかっ。


「……なんだこの人。可愛すぎる」

「聞こえてるよー」

「そこは聞いてないフリしてくださいよ」

「聞こえるように言ったんじゃないの?」

「言ってませんよ⁉ ただの独り言です!」


 先輩は上機嫌に喉を鳴らす。俺は対照的にため息を落とした。 


 先輩の誘惑に、俺は一度だって勝てない。勝てたためしがない。


 結果、今日も誘惑に負けてしまい、先輩のご要望通り夕飯のリクエストを告げることになってしまった。


「じゃあ。肉じゃがが食べたいです」

「ふふ。畏まりました。しゅうくんの頬が思わず垂れちゃうくらい、とびきり美味しい肉じゃがを作るから期待しててね」

「もうこの状況の時点で大満足なんだよなぁ」

「私はもっと満足して欲しいな」


 先輩の膝の上で悶える俺。そんな俺を見て、先輩は満足そうに微笑みを浮かべる。


 甘くて胃がもたれるどころか、糖分の過剰摂取で死んでしまいそうだ。


 それでも、先輩はまだ俺を甘やかし足りないらしい。


「しゅうくん。もっと私に甘えていいのよ?」

「いやいや! これ以上甘えたら尊死しちゃうんで無理です!」

「むぅ。意固地だなぁ。年下の男の子はお姉さんに甘える義務があると思うの!」

「ないですよそんなの義務⁉ ……はぁ。まさか、緋奈さんがこんな性格だっただなんて」

「幻滅した?」

「するわけないじゃないですか。あ、緋奈さんに甘えるのは、好きなんで」

「ふふ。じゃあもっと甘えてほしいな」

「ぜ、善処します」

「うん。すごく期待して待ってる」


 先輩の微笑みは俺を逃がさない。


 先輩が垂らす甘い蜜にまんまとはまる俺はただの愚者。でも、その甘い蜜に毒はなくて、情けなく溺れることを許してくれる。


 この小悪魔な先輩が俺のことをどこまで好きかどうかはまだ分からない。だって俺たちの関係は確かに『恋人』という定義に当てはまるけど、けれど、そこには(仮)が付くから。


『――好き。もう超好き』


 それなのに。


 甘えさせ上手な先輩が、俺を勘違いさせる。


 年下を弄ぶのが上手な先輩が、俺を先輩のとりこにさせる。


 先輩無しじゃ、生きられない体に改造されていく。


「大好きだよ、しゅうくん。私無しじゃ生きられない体にしてあげるから、覚悟しててね」


 ――そう言って緋奈藍李あかなあいり先輩は、天使のような微笑みの奥に欲深い小悪魔の一面を覗かせたのだった。





【あとがき】1/14追記

プロローグご拝読頂きありがとうございます。

本作は基本甘さ重視の作品となっております。(特に3章が見どころです)


1章、2章、3章と本作は続いておりますので、心行くまで本編をお楽しみください。


本作を応援してくださる方は是非☆レビューを押して頂けると作者の小説活動の励みになります。応援コメントも気軽にくださいね。


皆様のご支援ご期待のもと、本作を共に盛り上げていけたら原作者と致しましても嬉しい所存です。


ひとあまの応援のほど、よろしくお願いします。

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