第64話 何気ない日常の矛盾
2月11日金曜日
今日は祝日なので朝から昴の家に話をしにやってきました。
「んで?今年はなに着ればいいの?」
「そうだなぁ……やはりナツがいいんだろうが……」
「なーに不満そうだね」
「いや…最近の氷華を見ているとナツはなぁ……と」
「む………なんだなんだまるで私がおっちょこちょいのお転婆ガールだって言いたいの?」
「いやそこまで言ってないが?」
昴と話し合いながら今年の本とコスプレの内容を考える。
「やっぱり今年もナツ本?」
「いや……ハル本でいこうかと思う」
「どうして?」
「なんとなくだ。今のお前ならハルの方が似合うだろう」
「そうかなー……」
最近の自分はそんなにナツらしくないだろうか。
いや…………というか……
「そうだ昴。ハルといえばさ、あの時のことちゃんと謝ってなかったよね」
「あの時?」
「ほらあの……ハルとナツどっちと付き合うのーってやつ」
「あったなそういえば」
「ホントにごめんね……」
「何を今更……そもそもあの話はどう考えても俺の気が利かなかっただけで………」
「………なんでそんな話になったんだっけ」
「知らんが………確かあの時の氷華はかなり凹んでいたな」
「…………あの日って…確か生徒会長をやってくれって景虎先輩に言われて……それで…」
『ほら、文化祭前までのヒメちゃんってさ、なんというかこう……まさに氷姫って感じだったじゃん?』
氷姫……
最近言われることは完全になくなった昔の私のあだ名。
『いやこう…中学の頃の話を疑うとかじゃないんだけどさ?あまりに前と違うもんだからもしかして無理して明るくしてくれてるのかなって』
『俺は前のヒメちゃんも好きだったからさ、ほらビンタしてくれた時とかカッコよかったし』
中学でイジメに合い、逃げるようにやってきたこの学園でも一年生の頃は人との関わりを避けてきた。
だからついたあだ名は氷姫……だったはず…
「…………氷華?」
じゃあなんで私はあの日、龍牙の元に走ったの?
慰めて欲しかった?なんで?
龍牙が私のことが好きだって確証があったから?慰めてくれるって思ってたから?
じゃあなんで断られた時に強引にキスなんてしたの?
それなのになんで文化祭の劇であんなにキスをすることを拒んだの?
『これであのバカ男の腹をぐさーってやって後悔させてやるの、ワタシの友達を奪っていったことを』
『……誰も奪ってなんか』
『は?アンタに何が分かるの?』
恵の言う通りだ。なんで私は恵が龍牙のことが好きだって知ってたの?なんで本心と違うこと言ってるって分かったの?
『好きだ!!!』
『…ごめんなさい』
『貴方とは、付き合えないわ』
あの夏、どうして昴の告白を断ったの?
嫌いじゃなかったはずだし、むしろ好きだったはず。
なのになんで……?
「おいどうした……おい!!」
『……調子のってんじゃないわよ』
『え、え?…だって、えぇ!?』
『人にあんなもん飲ませておいて……抵抗しないわけないでしょ…』
玲央に襲われた日。なんで私は飲み物に何か入ってるって確信があったの?ただ寝ちゃっただけかもしれないのに……
『ほら、早くしねぇと氷姫様ともあろう御方が授業に遅れちまうぜ?』
『分かりました、やります、やりますから』
『…マジ?』
『だから早くどきなさい!』
なんで……龍牙の誘いを断れなかったの?
チアなんてやったら目立つに決まってる。
そんなことよりも授業に遅れたくなかったの?なんで?
『………大事なことを忘れる年になる』
何か忘れてる…………大事な……何か……
『んー……今年も平和に生きられますように……かな?』
今年も……生きられる………
『お前の本音はなんだよ』
誰………私の声……?
『そんなの……死にたくないに決まってんじゃん!!』
『だったらこれが今出来る最善策なんだよ!』
『でもダメだって!このわからずや!!』
『…お前なら大丈夫。やっていけるさ』
『ねぇちょっと!!!ねぇ――――
「おい!!!どうしたんだ!!!」
「はい!!?」
昴の大声に驚き、その拍子に昴の頭に頭突きをしてしまった。
「危うく眼鏡に当たるところだったぞ……」
「ごめん……」
額を擦りながら昴に謝罪をしつつ、昴の手元に目線を落とす。
「あれ……今年はハル本なんだね」
「は?さっき言っただろ?お前のコスプレに合わせてそうすると」
「え、私が出なきゃなんない?代わっちゃダメ?」
「代わるって……誰に……」
「そんなの…………」
「………………」
「………………」
ふたりして顔を見合わせ、しばらく固まってしまう。
「私さ、思い出したことあるんだけど…」
「奇遇だな、俺もだ」
理屈は分からない。だけど……
「ヤバいかも昴……」
「そんなにか?」
「……お願い手伝って!!」
私は勢いよく立ち上がり、昴を連れて部屋から飛び出した。
「おい!何をするつもりだ!!」
「考え中!!けど……!」
散々助けてもらったんだ。今更ひとりでカッコつけさせるもんか。
「私を…忘れさせるわけにはいかないの!!」
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