鈴が鳴る!
鈴イレ
ep1:ある晴れた梅雨時期の朝
〈day1 / 07:30 / 井鈴家・玄関〉
山口県は冬寒く夏熱い。だからと言って春は花粉ばかりで秋は秋で長期休暇がない。ゆえに日本の学生たちの指揮は年中低く、おまけに年五回もある地獄のテストを考慮するなら限界社会人に匹敵するほどの苦しみを味わっているといっても過言ではないはずだ。
時に
だが俺の苦しい言い訳もむなしく、俺は学校にいくことを義務づけられている。理由は国民の義務とか云々より今日が中間テスト返却初日。ここで休むと後日のテスト返却で一喜一憂することができない。あまりに悲惨な結末を連続的に受けて
でもそれ以上に、今日も彼が家の前で親友契約を半ば一方的に承っているから休むにも休めない。
直渉:「行ってきまーす」
直渉ママ:「いってらっしゃーい!」
母とのいつものやり取りを行って、俺・
ドアを開けてもアニメでよく流れる小鳥の囀りや好奇心と冒険心を奮い立たせるようなアップテンポなBGMは無論聞こえなかった。まあ、当然の事だ。
だがその代わりと言ったらあいつに怒られるが、聞き慣れる、いつものこの無邪気な彼の声が「朝だ、朝だぞ」と叫びだす。
令斗:「オッハー、ナオフミー!」
いつもの黒髪寝ぐせ(かアホ毛の
彼の目が今日を照りつける
直渉:「おはよ。にしても、わざわざ俺の家まで来ることはないだろ?」
あきれ半分じとじと湿り気けだるさ半分混ざった声であいさつを返すと親友・
令斗:「別にいーだろー。直渉が損するわけでもないんだし、直渉の命が危ないと聞いてせっかく護衛してやってのに!」
直渉:「いや俺は大統領じゃねぇから!」
そうツッコミをいれてみたがやっぱり朝は頭が働かない。大統領だからってすぐには死なない。ってか、大統領殺すなよ。
眠気と家に戻りたいという誘惑が頭にちらつく。だって、あの生徒会長がまた襲いに来るかもしれないから。だってもう10回目だし、勘弁して欲しい……。
でも、なんだかんだ言って今日学校に顔を出さないと、もっとつらくなるし……。
理由は国民の義務とか云々より今日が中間テスト返却初日。ここで休むと後日のテスト返却で一喜一憂することができない。あまりに悲惨な結末を連続的に受けて
……これがジレンマというものだろうか。行っても地獄、帰っても地獄。生きても死んでも地獄。
――つまり、この世界は地獄で出来ている……!
でもこの大親友はこの地獄のような社会においても依然として俺に笑顔をくれる。いや、もしかしたら何も考えてないのかもしれない←だってこいつ馬鹿だもん……。
まあ、どうでもいい。
――笑顔をくれる親友がいるならこっちも親友として恩を返してやる……。
直渉:「ちょっと待っててくれー」
俺は裏庭から自転車を
俺の家は丘の上。そこから下ると高校が一つ。令斗の家はここから高校を挟んだ住宅街にある。令斗はそこから直で学校に行った方が近いのだが彼は何故か中学校と真反対の俺の家。しかも俺の住む地区にはでっかい坂が存在するのだ。
そのでっかい坂が引き起こす問題は帰る時、自転車通学生はこの急な上り坂を超えないと吾が愛しの家には帰れないという
我が道を行く令斗、それをなんだかんだ許して振り回される俺。この関係はいつの間に完成したのだろうか。そう
令斗:「あ、そうそう、俺、昨日気になって10時間しか寝れなかったんだけどさ」
——結構寝るなー。
令斗:「もし直渉が大統領になったら、どんな立法案提出するならどうする?」
——いきなり大喜利かよ……。
大統領にもしなれたら、何のための法律を作るのか。いきなりな質問に俺は
直渉:「コメの品種に
俺の投げやり回答になんじゃそりゃ、と令斗が腹を抱えて笑う直後、令斗が突然目を何故か尖らせた。それはあたかもシリアス展開をよそおうような目を、真犯人を炙る出した名探偵のような目を作り出した。
令斗:「打ち首か……。俺やったら
訂正。どうやらテロリスト&犯罪者予備群の目であった。その目に俺はまた晴天の影に大きなため息をついた。
どうでもいい話だが、海老責めとは江戸時代の拷問。最初は緩く感じる拷問だが時間が経過するたびに肌が赤く腫れ、海老のようになることから名前が付けられた。何故をこれを知ってるかって、まあ、そういうときもあるさ。
俺の反応に大笑いする令斗。そういう態度をとっているだけで何処か
令斗:「ま、最後は殺してあげるんだし、俺マジ優しい!」
直渉:「何を言っているのだ? お前が優しかったらこの世の99%の人は千手観音だぜ」
令斗:「いやー、照れますね!」
直渉:「褒めてねぇし!」
こいつはまあ、馬鹿である。都合のいいことしか聞いてない。こういうノー天気な人間に生まれたかったものだ。
令斗:「って、ええええええええええええ! 直渉、褒めてなかったの?」
――反応が遅い遅い、いにしえのコンピューターかよ……。
すると令斗は瀬戸内フグみたいに膨れ上がった。
令斗:「これだから
直渉:「なんでそれ本人に言うんだよ!」
――っていうか、稲原のやつ、何陰口叩いてんだよ……!
俺は歯を強く噛み締めて自転車を漕ぎ始める。シルバーの自転車は朝日を反射したららしく横目にした令斗が目を細めた。ミンミンゼミの
令斗:「って、お、おい待てよ! おいてくなよ!」
後方の令斗も自転車を急いで
直渉:「稲原のやつ、殺す……。絶対に殺す……!」
令斗:「うわ(ドン引き)……」
ある晴れた梅雨時期の晴天。その丘の上に住む直渉と並走するのは、彼の大切な親友でした。
次回・ep2:ある晴れた梅雨時期の狂い事
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