和平交渉に二つの命を懸けた男
ろくろわ
宇宙人と地球人の共通点
その日は急に訪れた。
誰も予想しなかった。いや、誰もが予想した事はあったが、現実のものになるとは思わなかった出来事。
地球はまさに今、空からの襲撃。銀色に輝く円盤形の戦艦に乗った宇宙からの来訪者に、滅亡の危機を向かえていた。
彼らは日本の上空に戦艦を停めると、空に向かいレーザーを打ち上げた。
雲は散り、空は割れ、その一撃に大地が震えた。その行動は地球に対する宣戦布告と捉え、世界は連合軍を作り一矢触発の状況となった。だが世界の戦力をいくら集めた所でどうにもなら無い事はすぐに分かった。どの機械でも空に浮かぶ戦艦を捉える事は出来ず、偵察用の兵器は近づく事も出来ず塵となった。
無駄な攻撃は刺激になる。そう判断した地球の防衛トップはただ静観するしかなかった。
ただ一人、その男を除いて。
男の名前は
根っからの軍人と言うわけでは無く、地球防衛志願兵と言うわけでもない。ただ地球の持てる最大戦力が使えないと分かった今、残された手段はネゴシエーション。つまり交渉しかないと思い込んだごく普通の一般人だ。
忠見は単身、自身の持つ最大戦力を鞄に詰め込むと銀色の円盤形の戦艦の下へと歩みを進めた。彼を止めようと近づく同志には「相手も生物である以上、必ず分かち合えるはずだ。つまりネゴシエーションが有効なんだ。そして俺はそんなネゴシエーションをしてみたい。ただそれだけのエゴシエーションで動いているって訳さ」と意味の分からない言葉を残し、円盤形の戦艦に吸われていった。
あれから二週間が過ぎた。
相変わらず銀色の円盤形の戦艦からは何の音沙汰も無かったが、世界の防衛軍は徐々に警戒の緊張を緩めていった。それは円盤の戦艦の様子からも見てとれた。いつの間にか戦艦の外装は、日本のアニメ『好き好き魔法ネコにゃん。ご主人様とお嬢様』のキャラクターカラーに塗装され、キャラクター達が綺麗にペイントされていた。戦艦の主砲部分はマジカルステッキになっており、誰がどう見ても立派な『好き好き魔法ネコにゃん。ご主人様とお嬢様』のお客様であった。更に最近はアニメイトでも宇宙人が色んなジャンルのアニメに手を出している姿が見られるようになった。
きっと地球が攻撃される事は無いのであろう。
これも全て忠見 照があの日、鞄に詰め込んだ己の最大戦力、エゴの塊『好き好き魔法ネコにゃん。ご主人様とお嬢様』の動画やグッズその他一式で、見事に宇宙からの侵略者の心を鷲掴みにして攻撃や侵略の意思を打ち砕いたのだ。
そして、二週間姿が見えなかった忠見 照がどうなったかだって?
彼は単身、宇宙戦艦に乗り込み、己の一番の推しアニメを布教し沢山の信者を作ると、地球への攻撃や侵略を止めさせ、この後普通に生き残って普通に帰ってきた。
了
和平交渉に二つの命を懸けた男 ろくろわ @sakiyomiroku
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