恋する可愛い私たち
花火仁子
恋する可愛い私たち
私たちはいつも、終わりを見つめている。始まってもいないくせに、終わりを見つめている。始まったとしても、やっぱり終わりを見つめている。終わりを見つめていないと、安心できない生き物である。恋する可愛い私たちは。
なかなか梅雨が明けないまま、ずるずると夏の始まりが遅れている今日この頃。終わりを告げられてばかりだった私は、人生で初めて、終わりを告げる側になった。
近所のカフェにて。
「好きな人ができたから、別れてほしい」
私は要約しすぎた別れを切り出す。要約せずに言うと、あまりにも長くなるし、あまりにも彼を傷つけることになるから、優しい私は、そう表現した。
男だということを最大限に利用した彼は、私からスマートフォンを取り上げた。暗証番号なんて教えたことなかったのに、彼は一発で正しい番号を打ち込んでみせる。その時完全に終わった音がした。もちろん、好きな人とのやりとりを見られてしまうからでは、ない。その行為に対してだ。それと、私がシンガーソングライターだったら、お別れの曲にでもしてあげたかったけど、それにすらなれないくらい、お粗末な終わりの音だった。
アパートのベランダで煙草を吸いながら、気付いてしまった。
始まらなければ、終わりを見ることすらできないと。
あなたとの、始まりも、終わりも、私はこの目とこの心で、しっかりと見たいと、願ってしまったよ。
恋する可愛い私たち 花火仁子 @hnb_niko
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