陰陽師になり損ねた男 今日も鬼と宴会をする

第1話 受験失敗

 今日は、待ちに待った陰陽師育成学校の受験日だ。日本の三大都市に1校づつしかなく倍率は何千倍もある人気の高校だ。俺が受けるのは名古屋にある中部陰陽高校で子供のころから夢見ていた陰陽師になるため試験会場まで急いで走っていた。


「やばい、やばい!遅れる~。」


 集合時間まで残り15分、全力で走れば10分で着くので急ぎつつ道を間違えないようしっかりと確認しながら進んで十字路を曲がったとたん世界が真っ暗になった。


「へ?ここどこ。さっきまで町中にいたはずなのに。」


 おかしいと思い周りを見渡すと光のともった灯篭が並んでおり道のようになっていた。周りは真っ暗でどこに行けばいいかもわからないので灯篭に挟まれた道を進んでいく。しばらく進むと満開の桜がたくさん植わったお花見場のようなところがあり大人数の笑い声が聞こえてきた。


 目の前まで到着すると額から角をはやしたいわゆる鬼といわれる者たちが酒を飲み肉を食らい宴会をしていた。


「なんだおめえ!人間か?珍しいなこっちの世界に迷い込んできたのか。」


「俺初めて人間見たぞ!すげえ弱そうだな。」


 目の前に白髪の鬼と青髪の鬼がやってきて俺の周りをぐるぐると回りだしたので、対話が可能かどうかわからないが話せる相手がこの人?鬼?たちしかいないので助けを求めてみる。


「俺は中門 司門といいますが、ここってどこですかね?さっきまで街中だった気がするんですけど。」


「おお、ここは鬼の異界の一つで人間界とは全く別の場所だ。異界ってのは妖怪の住む世界のことな。」


「迷い込んじまったってことは、もう元の場所には戻れねぇな。あきらめて一緒に楽しもうぜ。」


「そんな・・・・。」


 もう戻れないという鬼の言葉に衝撃を受け膝をつきうなだれてしまった俺を両側から支え宴会場へと鬼たちが引っ張っていき輪の中で一緒に座る。


「これ水だけど少し飲んで落ち着け。かわいそうだとは思うが来ちまったもんはしょうがねえさ。」


「そうそう、これからのことを考えようぜ。ほらこの肉もくえうまいぞ!」


 落ち込んでいる俺を何とか励まそうと優しい言葉をかけてくれる鬼に感謝しながら少しづつ食事を口にする。優しい鬼たちに申し訳ないと思うが今の気持ちを分かってもらいたく愚痴ってしまった。


「俺、今日は夢だった陰陽師になるための育成学校の試験日だったんですけどここにきちゃって。昔から重要な日なんかはいつも何か失敗しちゃうんですよ、必死に努力しても行動しても成果につながらなくて周りからは努力が足りないとかダメなやつとか言われて自分がみじめに感じてくるんですよ。」


 話し出したら止まらなかった。今までの苦労と悲しみがあふれてしまいしゃべるたびに心が苦しくなって涙が出てきても少しでもわかってもらいたくてしゃべり続けてしまった。


 すべてを話し周りを見てみると、鬼たち全員が近くにより笑顔で肩をたたいてくれた。


「よく頑張ってきたな。そんなけ苦労しても夢追いかけてたんならお前はよく頑張ってるよ。」


「そうだな、途中で死を選んじまう奴だっているだろう。今までよく生きてきた。これからは俺たちが一緒に人生を楽しくしてやるからこれからも頑張れよ。」


「俺たちが友達になってやるよ。さあ手出せ、握手だ。」


 みんなから励ましの言葉をもらい涙を拭き右手を差しだした。すると黒髪の鬼が右手を握り返し上下に大きく揺らしてこれからよろしくと言ってハグまでしてくれた。それを皮切りにほかの鬼たちからも握手とハグをしてもらった。全員との握手が終わると手元に百鬼夜行と書かれた赤い古書が現れた。なんだろうと不思議に思い開いてみると鬼の名前と手形が載っていた。


「それは、俺らとの友情のあかしだ。呼びたい奴のページを開いて声かけてくれればいつでもどこでも行ってやるからな。一人がつらいときには呼んでくれ。」


 鬼たちにお礼を言い。何かお返しとして宴会の料理を作ることにした。これでも一人暮らしをしており一般的な料理ぐらいは作れるのだ。見たところ丸焼きなんかの大雑把な料理しか並んでいないためここは唐揚げなんかを作ってあげようと思う。食材の場所を聞き準備に取り掛かる。


 皿にぶつ切りにした鶏肉を入れ酒や醤油、ニンニク・ショウガ・唐辛子を入れつけておく。時間がたったら米粉をつけ熱した油の中に入れていく。米粉を使ったから衣はパリパリになり大きめに作ったから食べ応えもある。出来たものをどんどん皿に移し宴会場へ運んでいく。鬼たちは見たことがない料理に警戒していたが赤髪の大男が一つ食べ大声でうまいと叫んでくれた。その後は取り合いになり追加で何度も作ることになったがみんながとても喜んでくれてよかった。


 その後も宴会は続きみんなで飲んで食べてをしていたら突如宴会場の前に白いふすまが現れた。


「おっ!あれは出口だな。良かったな、これで人間界に帰れるぞ。」


 妖怪たちは異界を自由に移動できるが、迷ってきた人間は今回のような襖だったり扉から元の世界に戻れるらしい。ただ現れる条件はわかっていないみたいで帰れない人が多いらしい。


「ほら、なくなっちまう前に早く行きな。」


 背中を押されて襖の前まで進むと鬼たちがじゃあな~と声をかけてくれた。最後まで優しい鬼にお礼を言って襖をくぐった。目の前が真っ白になり思わず目をつむり開くと異界に行く前の路地に立っていた。手には古書を握っていたので夢ではないだろう。中を開き頁をめくっていくと最後の見開きに鬼の異界と人間界と書かれた襖の絵が載っていた。おそらくこれからは自由に行き来ができるのだろう。近いうちにまた顔を出そうと思う、いい報告ができたらいいな。


 時間を確認すると1時間しかたっておらずなんだか不思議な感覚だが試験会場には間に合わなかったので受験は失敗してしまった。でも鬼たちに励ましてもらったのだから今回はあきらめてとりあえず前に進もうと思う。




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