第9話:行動しましょう
私を馬鹿にして気分が良くなったのか、レヒニタさんは鼻歌を歌いながらステーキにナイフを入れています。
一口で食べるには大きいと思う一切れをフォークで無理矢理口に押し込み、体を揺らしています。まだ鼻歌は続いています。
幼い子供でも、もう少し行儀が良い気がするのは私だけでしょうか。
さすがにレグロも不快さを顔に表しました。
「レヒニタ、うるさい」
レグロが注意すると、レヒニタさんの動きがピタリと止まりました。
注意されると思ってなかったのか、レヒニタさんは驚いたような、傷付いたような、複雑な表情でレグロを見てます。
それに気付かないわけは無いのに、レグロは私へと顔を向けました。
「カリナ、部屋を私の隣へ移動しろ」
いきなりの命令に、目を見開いてレグロを見てしまいました。
レグロの隣とは正妻の部屋で、今はレヒニタさんが使っています。
「ちょ! レグロ!? アタシはどうすんのよ!」
そうですよね。私もそう思います。
「レヒニタは出産と子育てがあるから、別邸へ行け」
はい? アレンサナ侯爵家では、妊婦は別邸にいく慣習でもあるのですか?
それは人道的にどうなのでしょうか。
「それには使用人を増やさなければいけなくなりますし、お腹の子の為にも良い事とは思えません。私は今のお部屋で充分ですわ」
私が即座に拒否をすると、レグロは驚いた表情を私に向けました。
いや、あの、むしろ、なぜ了承すると思ったのでしょうか?
レグロが不機嫌になり、途中で席を立ったので晩餐はお開きになりました。
レヒニタさんも急いで後を追って行きましたので、デザートのアイスクリームを持って来た給仕が戸惑っています。
1つだけ置いてもらい、残りは食べても良いと許可を出しました。そうしないと手付かずでも捨てられてしまいますからね。
私は最後のコーヒーとチョコレート菓子まで堪能してから、食堂を後にしました。
戻る先は女主人の執務室です。
何となく嫌な予感がしたので、自室であるガヴァネスの部屋には戻りませんでした。
執務室には、仮眠用の簡易ベッドも置いてあるのです。
そしてその特性から、執務室には鍵が掛かります。
外鍵とは別に、内側からしか開け締め出来ない鍵もあるのです。
ガヴァネスの部屋も鍵は掛かりますが、マスターキーで開いてしまいますからね。
その選択が正解だった証拠を、翌朝まじまじと見つめてしまいました。
寝に帰ってないのに、大きく
ソファがひっくり返ってるのは、下を探したからでしょうか?
人が隠れられそうな所を全て、荒らされていました。
「昨夜、旦那様がいらっしゃいまして、何かを探しておられました」
湯浴み中に私の髪を洗いながら、侍女のマーサが教えてくれました。
ガヴァネスの隣は、侍女の部屋です。
執務室で寝る事をクルスに伝言してもらい、彼女には早々に自分の部屋に戻ってもらいました。
そうでなければ、いつまでも私の部屋で待ちぼうけになってしまいますからね。
その代わり朝早めに来てもらい、湯浴みの手配をお願いしました。
湯浴みはメイドが来ると思っていたら、マーサがそのまま洗ってくれました。
前の雇い主が気難しい人で、彼女にしか髪を触らせなかったのだそうです。
その分、とても給金が良かったそうです。
うちも秘密がある分、少しだけ相場より高めです。
それにしても、本当に早めに戻ってもらって良かったです。
マーサの説明では、扉を少し開けて見ていたら、暴れたような物音がした後にレグロが私の部屋から出て行ったそうです。
もしも私の部屋にマーサが居たら、理不尽な八つ当たりをされていたかもしれません。
「領地のアレンサナ侯爵の所へ、しばらく行こうと思います」
命の危険すら感じますので、侯爵様に相談しましょうか。それにお義父様にも確認したい事があります。
アレンサナ侯爵は結婚式前には全然会おうとせず、結婚に反対なのかと思うほどでしたのに、結婚後には何も言わずタウンハウスの権限を私に与えてくれました。
元々タウンハウスの権限を持っていたのはお義父様です。
なぜ私の結婚を機に、お義父様が領地へ行ってしまったのか。
なぜタウンハウスの権限を私に譲ってくださったのか。
なぜクルスをタウンハウスで雇っていたのか。
アレンサナ侯爵家のタウンハウスは、おかしな事ばかりです。
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