第3話 可視化術士

「ハァ、ハァ...!」


時は少し遡る。可視化術士の時村は、ある男に緊急の話があり待ち合わせ場所まで急いでいた。


「ハァ!ハァ...!(クッ!日も落ち始めているが今の私は絶対に死ぬ訳にはいかない!なのにあの方と来たらこんな時に限って重大な任務で時間が割けないなんて!...だが、何としても伝えるんだ!私が未来をそうはさせない!)」


時村は路地裏の近道を使った。


「ハァ、ハァ、ハァ、...ウッ!」


強烈な視線を感じる。まるで魂そのものを見透かされている様な、心臓に冷たい刃物が通される様な嫌な感覚だ。時村は攻撃の姿勢をとり、辺りを警戒した。


「(これ程の殺意は感じた事がない...吸血鬼?それとも...何なんだこの感覚は?!)」


「貴様が可視化術士か?」


時村は声のする方に構え直す。するとビルの影からゆっくりと現れたのは、薄い金髪の髪を長く伸ばした、真紅の瞳をした透き通るように白い肌の男だった。


「貴様...まさか!」


その瞬間、時村はみぞおちを殴られた。凄まじい膂力。ヴァンパイアハントのスーツは特性で打撃、斬撃共にかなり耐性の高い物になっている。それでも肋の何本かは逝っただろう。折れた骨が内蔵を傷つけてしまったのか、時村は吐血した。


「ガハッ!...息が...!」


「質問に応えろ。貴様が可視化術士か?」


「誰が...貴様なんかに...!」


「憎まれたものだな。無駄に増え続ける人口を減らしてやってるのだ、貴様の様な変えの効く粗末な者より、余程社会を回しているのだぞ?」


謎の男は腕組みをし続けた。


「いや、少し言い過ぎだな。貴様は未来が見えるのだろう?その様な力、幕末の頃より生きているが聞いた事もない!とうに人の進化など期待していなかったが...存外、只の餌ではないのかもしれんな」


蹲っている時村を鼻で笑うと、男は時村の頭を掴み持ち上げた。


「グッ!」


「クククッ、だがな小僧、私は結末の知れた戯れほど、つまらんものはないと思うのだよ。...だから貴様はここで、お終いだ」


「グアアアア!!!」


とてつもない握力で今にも頭が砕かれてしまいそうだ。そんな最中、時村は思い出していた。最愛の人との生活や、それを奪われた時の悲しみ、憎しみを、宛て所のない数々の激情を!


「(嗚呼...そうだ、私は成し遂げなければならない。サヤの為、同期の先に逝った仲間達の為に!!!)うおおおおおお!!!」


「あ?」


次の瞬間、時村は男の腹に渾身の拳をぶつけた。男は不意を打たれたのも相まったのか、ビルの壁まで吹っ飛び激突した。


「私は叶わないと思っていた!敵わないとも思っていた!貴様をこの手で仕留める事をだ!ヴァレー!!!」


瓦礫からヴァレーが立ち上がった。


「クククッ、王を付けろ、可視化術士(ほう...これが気魂を操る現代の業か...その者の精神力が業に加算され、只の打撃とは比べ物にならない破壊力を持つとは...興味深い)」


「黙れ!貴様には身動き一つさせん!ここで死ね!!!ゾーン!!!」


そう言うと辺りは真っ白な世界に包まれた。空には恐らく目だと思われる巨大な存在があり、影が落ちる隙間すらない真っ白な空間では足元の影さえ存在しない。


「ほう...」


「これが私の最高地点、【神の水面】(かみのみなも)ここは1秒先から神の想像の果てまで、全てを強制的に視せる事が出来る。しかし、それは宇宙の理を知るも同じ。知った者は脳が破壊され死に至る」


「貴様には何の代償もないのか?」


ヴァレーは平然とした様子だ。


「...あるさ。私の魂は罰として抹消され、無に還る」


「クククッ、実にくだらん業を会得したものだな。魂すら消し去られるくらいなら、一度素直に死を受け入れるべきだ」


「フン、他人の心配してる場合ですか?」


「ああ、私の心配はいらんぞ。続けよ」


「(何故ああも余裕でいれるんだ?何か策でも?いや、今は全身全霊を賭けて奴を殺すのみだ!)くらえ!ヴァレー!!!」


その瞬間、夥しい程の未来がヴァレーの脳に強制的に押し寄せ、理解させられ続ける。その最中ヴァレーは語った。


「...私は同じ事を二度言うのは嫌いなんだ。結末の分かりきった戯れなど...」


その瞬間、真っ白な空間がねじ切れ、元いた場所へ二人とも立っていた。


「!!!私のゾーンが!!!ガハッ!!!」


時村に強い衝撃が走った瞬間、心臓がいつの間にかもぎ取られていた。引き離されたとも分かっていない心臓はヴァレーの手のひらでまだ脈を打っている。


「結末の分かり切った戯れなど...つまらない」


「ゲボォオォ!!!」


時村は大量の血を吐き倒れた。ヴァレーは心臓を咀嚼すると何処かへ立ち去って行った。


「グハッ...!!!(一体どうやって...技は使った、私は無になるんだろう。嫌だ....嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ...!死にたくない...!!!)」


再度、時村は走馬灯を見た。サヤの笑顔や、仲間達と過ごした日々が駆け抜けていく。


「(そうだ...私は成し遂げなければならない...可能性を...紡ぐんだ...!今の私に出来るのは...これくらい.......)」


数秒も経たずに時村は動かなくなった。


地面には血文字でAと書き残されていたーー

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ヴァンパイアハント ー 0 ー ブレイクマン @BREAKMAN

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