第23話 謝罪されました

電話をしてしばらくしたころ


息を切らしてこちらに向かってくる家族らしき3人の姿が見えた


2人は両親、そしてもう一人は…


「「雄太!!」」


2人の男女が雄太と言う少年を抱きしめる


「ごめん、お母さん、お父さん…」


もう一人は、俺でも分かる人だった


「一瀬?」

「笹岡君?」


そう、この雄太君はヒロイン 一瀬ゆかりの弟だ


というのも、原作では『ゆかりの弟』という名前だけで登場するが

こうして実際の名前が付けられていると、非常に覚えやすい


「電話越しで雄太君が言ってたお兄ちゃんは、笹岡君のことだったんだ」

「まあな。…にしても、公園の名前で間違えるとは」

「うん…、まさかにまで足を運んでいたなんてね…」


♰♰


この街にはややこしい名前が付けらている公園がある


それが“日野谷公園”と“日野々谷公園”の2つだ


今、俺たちがいるのは日野々谷公園

ここから北へ2キロ離れたところにあるのが、日野谷公園


そして、一瀬が住んでいる家の近くでもある


元々、市議会でこの2つの公園の命名が論争となっていた


【日野谷公園と日野々谷公園】か【第一日野谷公園と第二日野谷公園】のどちらか


公園の名前は、地区の名前に由来する


後者は、日野谷地区が日野々谷地区より範囲が広いため、日野谷地区の住民が第一と第二に分けるべきだという意見が出た


それに対して、日野々谷地区の住民は猛反対

意見が全くかみ合わず、10年以上の論争が続いた


これが市議会でも大きく取り上げられた


長く及んだ議論の末、前者が賛成多数で選ばれた


だが、雄太君のように2つの公園の場所を間違えるケースは年に十数回あるという


やはり第一と第二の方が迷わずに済むのではないかと言う議員からの意見も出たが、覆らず今もそのままになっているのだ


♰♰

雄太君は、学校の友達とゲームをする約束をしていた

その友達も、日野谷地区に住んでいる


では、何故雄太が家より遠いこの場所に来たか?


答えは単純


「私が間違って日野々谷公園って言っちゃったから…」


一瀬の言い間違いだった


部活帰りに弟を日野谷公園へ迎えに行くつもりが、

いつまでたっても姿を見せずに、そのまま帰宅した


要は、彼女のうっかりだったのだ


♰♰


「笹岡君、ごめんなさい!!」


最初に謝ったのは一瀬


「私がしっかりしてたら、迷惑かからずに済んだのに…」

「気にしないで。雄太君はちゃんと待っててくれてたんだ。あまり責めない方がいい」

「そうだね」


そして今度は


「うちの娘と息子がご迷惑をおかけしました…」

「…疑ってごめんなさい」


一瀬の両親が俺に頭を下げる


「いえいえ、この時間帯だったら疑われても仕方ないですよ」

「ですが、お詫びに何かしないとこちらの気が済まないと言いますか…」

「気になさらないでください。もう終わったことです」


それでも、両親の顔は晴れない様子だった


「お兄ちゃん」


すると、雄太君が制服のジャケットを引っ張ってきて


「僕と遊んでほしいんだけど、ダメ?」

「こら、雄太!」


子供らしいお願いだが、父親が止めに入る


「構いませんよ。そうだな、次の土曜日が空いてるよ」

「じゃあ、僕たちの家でゲームして遊ぼう!」


パッと花開いたかのような笑顔を見せる

本当に可愛い笑顔だ!


「分かった。楽しみにしてるよ」


そうして、一瀬一家と別れた


「はぁ~、あんなことを言ったとはいえ、嫌だな…」


ついに、俺はあの殿に行くことになってしまった




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る