最終章 明日は明日の風が吹くだろう

第36話 ホテルから九州入りで?

「おはようございます!」体をよじり目を開いた瞬間に甲高い声の挨拶が返される。


 もちろんお子ちゃまリリがていねいに挨拶なんてできるはずもないからヒカルだ。

そもそも同じベッドから響いた声じゃないしヤバすぎる事後みたいな流れでもない。


 それでもおかしな状況に疑念を覚えることはある……ヒカルがいる理由はなんだ?


 確かに最近はジャンバリ収録で演者仕事の絡みだからおかしい感じはしなかった。

この数日で会ったばかりのリリとも打ち解けてやけに息が合う様子を見せるヒカル。



 それでもリリとミナミの出会いから五日をすぎてヒカルがいる理由にはならない。

「なぁヒカルちゃんさ。わけわかんないけどオレたちに同行する理由ってあるの?」


「マジメな理由は……リリちゃん心配してるんだ。それでも目的は別にあるけどね」

「まぁ正直な話になるとヒカルがいてよかったよ。若い女の子なんて謎ばっかりで」


 流されるようにミナミを出発して神戸から先は二号線をひたすら西進する旅路だ。

おかしなメッセージ……先輩の意図が読めないまま依頼されてパチスロに挑む日々。


 となりのベッドで寝息を立てるリリはお疲れ気味……昨日は半ばぶん回し状態だ。


 確保したホテルに戻ると倒れそうになったリリをヒカルにお願いして入浴させた。

あわててレストランに軽食を頼んで部屋まで運ばせると食べ終えてからすぐの就寝。


 夜食を済ませると日付変更線を跨ぐ時刻で……子どもに八時間睡眠が必須になる。



 幸いなことに先輩からのメッセージはなく朝食バイキングの終了まで余裕はある。

山口の宇部から国道を進んで九州入口の……関門海峡トンネルまで七十キロぐらい。


 かなり一般道が混雑しようと二時間足らずで門司港のレトロ地区まで到着できる。

そもそも国道二号の終焉は北九州市門司区の老松公園前交差点で三号の起点になる。


 そう一面真っ暗のトンネルを抜けると北九州に繋がる人道橋部分だけ完全に無料。



 福岡県北九州市門司港から博多まで……混み合う都心を通過しても数時間ほどだ。

いよいよリリとお別れになるだろう大濠公園……ダンジョンの入口が間近に迫った。


 国道三号で九州北部山中をすぎるとひたすらの西向きルートで海岸沿いに福岡市。

福岡は狭い地域の街中に空港がありよく晴れると海沿いで壱岐島や対馬を見渡せる。


 名所はソフトバンクホークス本拠地になるPayPayドームと傍の福岡タワー。

新幹線駅に距離がないキャナルシティ博多周辺にある高層オフィス街は都心になる。


 福岡城郭の跡地である舞鶴公園は一部が大濠公園と接触するほど近くに隣接する。


 夏に大きな花火大会が開かれる大濠公園で離れ島と行き来するのは南北の通路だ。

詳しいことまで調査しておらずダンジョン入口がどこにあるのかも実際わからない。



 後ほど判明する大濠公園のダンジョン入口は南端にある武道館建屋にあるらしい。

大濠公園は縦一キロで幅が五百メートル近い巨大な池に浮かんだ南北に長い孤島だ。


 朝食バイキングをギリギリまで楽しんでから出発する時刻はほぼ正午直前だった。

リリにとって最後になるかもしれないドライブを楽しみながら日差しが傾く時間帯。


 ほとんど夕方近くになり大濠公園を遠巻きにしながら鉄道線路沿いから近づいた。

陸上自衛隊で管轄する博多ダンジョンは基本的に立ち入り禁止の警戒区域に当たる。


 そんな最中にスマホのデフォルト着信音が鳴り響くと三者三様の姿でビックリだ。

もちろん画面表示の名は先輩……レージさんだからゆっくり着信ボタンを押下する。



『随分長いことお待たせしちまったが……ようやく自衛隊サイドの許可も降りたぜ。

明日以降日中なら『大濠公園ダンジョン』入場は可能になる。入口が武道館らしい』

「レージさんお久しぶりです。単刀直入に用件を伝えるのってデフォルトですか?」


『まぁこっちも準備になんのかな……いろいろ用意あるんだよ。ややこしくてさぁ』

「あえて伝えないことで未来の選択肢を狭めない……わかりますけどわかんなくて」

 先輩は頭がよくても言葉足らずみたいな無駄を省く会話で要点があやふやになる。


『まぁヨーコ曰くになるが伝えられないことが多すぎてジロウくん。任せたよって』

「なに一つもわかんねぇし見えない状況でお任せされちゃうとマジに困るんですが」



『ヨーコの未来視かなり見えちゃったらしいぜ……どこのルートもハッピーエンド』

「ふむ。誰にとってのハッピーエンドか気になりますが……悪くない事前情報です」


『おぅ彼女ら救うためお前にしかやれない行動がある。こっちで健闘を祈っとくぜ』

「絶妙な感じにはぐらかされましたけどそれもいつものこと……まぁ頑張りますよ」


 伝え終えると……いつもピッタリのタイミングで切断音が響くのは埒が明かない。

それでも理解できることはある……リリの将来すべてオレの手のひらに委ねられた。

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