第2話 陸路で道連れ世は情け?

 Orz土下座を決めたおバカ三人を睥睨するように見下ろして返答を待つだけだ。


「依頼されたのが夜明けに出現する白い女の子。京都駅の風俗店に連れてきてって」

 弱っちぃ赤髪のシンジくんが折れそうな腕を降りまわす説明は微妙にわからない。


 おバカ相手にどれほど追求しようと無駄になるから詳細部分は聴き流すしかない。

それでも七色の輝きが治まると白い少女が現れたなんて聴いたらオカルトのネタ話。


 おバカ三人組は少女の移動中ワーゲンをぶちかまして目が点状態になり自滅した。

夜明け前に準備を終えるように姐さんから指示された自体が恐らくは偶然じゃない。



 キャバ嬢から指定された目的地が政令都市の京都なら逆方向に遠ざかりたくなる。

少女にとって目の毒みたいなおバカ三人は諭吉を渡すと敬礼した直後に姿を消した。


 まさかリアル大阪で世界間転移なんてあり得ない現象が起きる理由はないんだよ。


 それでも確率的にゼロに等しい現象だからそれが絶対に起こらないとも限らない。

地震に共鳴するダンジョンの誕生で世界の理が変容したのは紛れもない事実なんだ。


 それなりに長くなったミナミですごす生活で不可解な事象は幾度となく遭遇した。

そもそもおかしな姐さんと同居中の先輩に齢を経た様子が微塵もないと聴いている。


 この世の中で常識とされる歴史的な概念が永遠に正しいなんてこともあり得ない。



「大声で叫ぶなら言葉を話せるんだよな。いや日本語じゃない可能性なら微レ存?」

 じっとオレの目を見つめて逸らさない少女とは意思疎通ができているはずだよな。


 子ども時代から一匹狼ですごしてきたコミュ障だから幼い女の子の相手は厳しい。

亀の腹筋とかワニの腕立て伏せよりラクなのかもしれないが勢い口説きたくなるし。



「日本語だからちゃんとわかります。わたしはリリここと違う世界からきたみたい」


 膝を抱えて三角座りする女子の口から年齢にそぐわない大人じみたセリフがでた。

気づかない間に双眸を見開いて凝視したようで少女……リリにくすくすと笑われる。


 頼むから女を意識させるのは勘弁してくれよ。ボンキュッボン女が好みなんだよ。

もちろんロリィタ男の言い訳じゃないし美少女は大歓迎だけど触れるとヤバすぎる。


 これってマジか……人間じゃなければエルフみたいな長命種の可能性なら微レ存。

それこそラノベとかマンガみたいな異世界ファンタジー系統ならあるあるだよなぁ。



「元バーテンダーのジロウ。目下のところは住所不定になった無職のプータロー?」

 きれいな女の子を相手どり話題作りに口説くわけじゃないのにいきなり小ネタだ。


「あははははっ! 住所不定で無職の元バーテンダーってわけわかんないんだけど」

 真っ白の長い髪を右手でかきあげる仕草にあざとすぎる笑みは大人のものだよな。


「わけわからないのは一緒だぜ。偉い人から早朝ミナミを離れろと指示されたんだ。

手切れ金の代わりが古いワーゲンゴルフ。いざ出発する間際にリリの絶叫だったよ」


 なんとなく流されるだけで主体性のない半生……それはそれで悪くなかったんだ。


「ふーん。いろいろと話したいことはあるんだけどさ……みんな追々にしましょう」

 右のこぶしを口元に当てながら左目だけを軽く閉じるウインクが艶っぽすぎるよ。




 とりあえずミナミ近辺から遠ざかりながら目的や行先のない逃避行も悪くはない。


「リリお嬢さま。お手を拝借してこちらの馬車……代わりの助手席に移動よろしく」

 手のひらを少女に差しだしながらカボチャの馬車じゃないがエスコートに動いた。


 リリも右腕を差しだすと同時に小さな手のひらでしっかりつかんで立ち上がった。

スカートについた砂ぼこりを手で払い落としながらこちらに身を寄せて歩き始める。


 震えながらうずくまった時点じゃ中学生より上に見えないイメージだった女の子。

いやいやマジかと裏切られた気分でも頭は間違いなくオレの胸より下になる位置だ。


 それでもか細い手足や顔色の悪さを除くと見た目とは違って子どもらしさがない。

全体的に小柄でオレの三割以下の体重だろうが洗練された動き方は大人っぽすぎる。


 ベテランの執事みたいに助手席ドアを開き少女を座らせハーネスを装着してやる。



 運転席側に移動しながらまずは西進だけを決めて成り行き任せのプランを考えた。


 大阪から古都とは逆方向に進むなら南下して和歌山港から四国のフェリーもある。

もちろん大阪湾岸や神戸舞子から淡路島を経由して鳴門海峡まで陸路も悪くはない。


 大型船の観光フェリーなら運転なしで四国や九州の目的地まで一晩で到着できる。


 行先や目的地のない旅路なんて日本人でもどれぐらいが経験していることだろう。

九十日間で世界を一周する豪華客船の旅なんてヤツは年老いたセレブ連中の御用達。


 疲労感までどこかに消えたから可能なら他者と接触のないルートが無難だろうか。



「そうだ久しぶりになるが地元……博多。下道のんびり移動するのも悪くないよな」


 身内と音信不通になってから数年が経過した以前の住まいに母がいる理由もない。

親しい友人や親せきなんて存在しないから成り行き任せで進路を変えて問題はない。


「博多……中州で有名な九州一の繁華街だったよね。興味あるから行ってみたいな」


 運転席のガラス越しに見つめ合う形の美少女は興奮気味らしくワクワクした表情。

なるほど普通の人じゃないかもしれないリリのご要望ならお応えしてやらないとな。



 違う世界からきたらしい少女が求める博多はわからなくても高校まで地元なんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る