空色杯10(↓)

mirailive05

小説書きの苦悩と懊悩と煩悩

『私はいま、事件の現場に来ています』


 そこで、ぴたっとキーを押す手が止まってしまう。


 某小説コンテスト。その応募作を書いているのだが、お題が難しすぎて話が進まない。


 キーボードの上を彷徨さまよう指先だけが、虚しく空気を叩く。


 小説書きにとっての事件発生か。


「それにしても……」


 なんで毎回こう、難題が出題されるんだ?


 しかも締め切りまで三週間もない。


 これを考えたやつは、きっと悪魔と契約でもしているに違いない。


 もしくは極め付きのSだろう!


 さらに困ったことには、最近はその難題が出題されると、気持ちよくなってくるのである。


「これはいったいどういう事なのだろう?」


 わからない。わからないけど、パソコンの前に座っている俺。


「才能無いなあ……」


 口をついて出るのは、悲観的な単語の数々。なのに小説を書くことは止められない。


「俺はいったいどうしてしまったのだろう?」


 こんなに辛く苦しいものを、なんで生み出そうとしているのだろうか?


 そう弱音を吐きつつも、今日もパソコンの前で、葛藤に震える指を何とか抑え込んでキーを叩く。


 いつ、この事件現場れんごくから抜け出すことができるのだろうか。


 困った、抜け出さなくてもいいように思えてきたぞ……



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