皇帝Side②

「ナターシャ…」


 玉座にて、キムはおぼろげにナターシャの名を呼んだ。すると家臣の1人が王の間に現れる。


「夕食の準備が整いました」

「わかった、参る」


 食堂へと現れたキムを、召使たちは頭を下げて出迎える。


「陛下、こちらが今日の夕食でございます」


 キムはいつも夕食は肉を食べる。この日は鴨肉のローストがメインである。無言で夕食を食べ進めていくとすぐさま食堂を後にした。

 その後は自室にて仕事に追われていると、すぐさま夜の褥の時間がやってきた。


「陛下、こちらからお選びください」


 キムには現在皇后はいない。本来はナターシャがなるべきポジションだったが、皇太子時代に彼女が火あぶりの刑に処されてからは、正妻は迎えておらず側室しか持っていないのである。

 そして褥を共にする側室は、後宮の宦官が用意したくじ引きで選ばれる。


「ではこれで」

「…アイリスですね。かしこまりました」


 アイリスは最近後宮入りした側室である。元は隣国から連れられてきた奴隷の人間である。しばらくしてキムの座る閨に寝間着姿のアイリスが侍女と宦官の3人に連れられてやってきた。


「陛下、よろしくお願いいたします」


 侍女と宦官が一礼して、部屋の外に出た。侍女2人は部屋の外で待機しじっと聞き耳を立てている。


「ふむ…」


 キムの冷たい目線が、アイリスへ刃のように降りかかる。




 

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