元将軍、ランドルフの告解
元将軍、ランドルフの告解
「今更言っても遅いだろうが、言わせて欲しい。
こんなことになるとは、思っていなかったんだ。
あいつは、私たちの息子のネヴェルは、とんでもない化け物に育ってしまった。
ああ、許してくれ、神様、どうか、どうか……」
一人の老人が、告解室で語っている。
布の向こうには誰もいない。それでも、老人は語り続ける。
……気付いたのは、六歳の頃だ。
私はあいつを成長させたいと思い、子供の多い環境へ放り込んだ。
同年代とのコミニュケーションは、必要だと思ったんだ。
信じられるか?六歳の子が、同年代の子供を脅し、傷付け、支配していたなんて。
傷付けられた子の中には十に近い子供もいた。体格も倍近くあった。
どんな手段を使ったのか、私にはわからない。想像もつかない。
あいつは、十二人の子供を支配した。完全にだ。
自分の手足となる存在を作り、自慢げに俺に言ってきたんだ。よく出来たよ、と。
信じられなかった。私は、友人を作って欲しかったんだ。
共に生きていけるような、意志を共有出来るような、頼れる友人を。
私にもいた。私は、そうして成長した。だからこそ、それを息子にも押し付けてしまったのだ。
……いや、私がそうして成長したというのもただの錯覚かもしれない。あいつのように生きたならば、私ももっと上を目指せたのかもしれない。
……私が化け物になるだけか、もしくは、化け物のなり損ないに堕ちるか。
怒ったさ。当然だ。奴にはまったく理解されなかったが。
最初は言葉を尽くせば良いと思っていたよ。行動で見せるのも、全ての手段を取ろうとした。
対等な人と人との関係こそが、全てなのだ。どんなときも、人を尊重し、尊重されればこそ。
伝わりはしなかった。私の努力は無に帰し、奴は私から隠れるようになった。
……息子のことを奴などと呼ぶのは良くないな。最後に息子に残った人間性すら否定しているような気になるよ。
私はまだ殺されていない。息子にとってもはや疎ましいだけの存在に成り下がったにも関わらずな。
それがただ一つの、息子の人間性だと思っている。
それがいずれ成長すれば、息子にも愛する人が出来、子を作り、幸せに……。
ああ、そんなの、夢物語か。もはや我が息子の業は底知れぬ。普通の幸せなど、望むことすら罪深い。
彼女には悪いことをした。勇者殿……名前は、ルーナ、だったか?ああ、そうだ。アラドス・ルーナ殿だ。
彼女が来た事により、息子のささやかな勢力拡大は度を越した革命へと変貌した。
息子が彼女を襲おうとした夜。私は息子に謹慎の命を下した。二度と王宮に入るなとも言ったか。
いつの間にか息子は、公爵と繋がっていた。
あの超え太った豚のような公爵が、息子を擁護し、私を責め立てたのだ。
理由はわからない、わからないが……恐らく、またも非道な行いをしたのだろう。
……いや、そうか、わかったぞ。
ああ、なんてことだ。信じられない。
もし、私の考えが正しいならば、我が息子の業はもはや収まりがたい。
神に唾をかけ、踏みにじるかのような所業。
息子は、奴は、私が謹慎を命じた夜、策を企てたのだ。
邪魔者を二人追い出し、自分が権力を持つ側に立つ策を。
今が奴の思い通りになっているのだとしたら、間違いない。
勇者を対価に公爵に取り入り、私を失脚させた。
そして同時に、勇者を離反させた。
奴からしてみれば、父であり将軍でもあった私と同じくらい、勇者という存在が目障りだったはずだ。
奴は力に飢えた獣なのだ。
勇者を利用しようと懐柔し、失敗すれば、追い出す。
全て計画の中だった。公爵と事前に繋がっておき、保険を取り入れた上で、勇者を襲うという暴挙に出た。
失敗したとしても、最終的に勝ちに結びつくように。
なんということだ。私の息子は、奴は、化け物なんて言葉では計り知れない。
あぁ、神よ、どうか、息子の業を私にも、許しを、息子に許しを。
彼が祈っていると、部屋の扉が大きな音を立てて開けられた。
焦って振り向いた時、後ろには兵士が二人、剣を構えて立っていた。
「ランドルフ殿……城へ、連行します」
片方の兵士がそう言う。彼はランドルフが指導したことのある新米兵士だ。
ランドルフは、そっと両の手を前に出した。
そうして目を瞑って、心の中でもう一度祈った。
人間性を持たざる、哀れな化け物である、自分の息子に。
あとがき
四話目、読んでいただいてありがとうございます!
次回からは週二投稿になる予定ですが、出来るだけ早く、ペースを落とさず、内容も落とさず書けたらと思っております!
今回は少し未来の話を書きました。これから先、何故この未来に至るのか、次回から描写していきます!
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