第16話 サプライズ爆弾
文化祭当日。
雫からの連絡はまだ無し。今日は授業ないからマナーモード解除の音量マックスで備えている。着信に気づかないことはないと思うけど、定期的にスマホ確認はしておこう。
それはそうと……
「「「「…………」」」」
一部のクラスメイトが複雑そうな表情でこちらを見つめている。
昨日、僕と黒龍の喧嘩の後、瑠璃川さんが助け舟を出した時に否定的だった面々だ。
つまり黒龍の迫力に屈した皆々だ。
その大半が申し訳なさそうな顔をしている。
空気が悪いなぁ。僕から皆に話しかけていけば良いのだが、それもできない気量の低さを呪った。
「皆さん、おはようございます」
雨宮さんがA組にやってくる。
緊張に包まれていた雰囲気が一気に和らいだ。さすが雨宮さん。居るだけでヒーラーみたいな役割を担ってくれる。
他クラスの雨宮さんが訪れることはもはや見慣れた光景だった。
僕よりも先に瑠璃川さんが彼女に近寄っていった。
「おはよう花恋ちゃん。いよいよ文化祭当日ね。花恋ちゃんは誰かと一緒に文化祭を回ったりするの?」
「い、いえ、その、まだ予定はないのですが……」
おっ、雨宮さんフリーな感じか。
雫からのミッション遂行の合間であれば僕もフリーな時間がある。
ここは僕から誘って――
「あの……雪野くん」
誘いに行こうと立ち上がった刹那、背後からクラスメイトに呼び止められる。
確か、糸井美咲さん。初めて話したけどたぶん名前は間違っていないはず。
「あっ、え、えと、何かでしょう? い、糸井さん」
急に話しかけられたことの驚きと持ち前のコミュ障が発動し、言葉を詰まらせながら返答する。
「うん。雪野くんにお客さん。あちら」
糸井さんの視線を追うように僕も教室の入り口の方に目をやった。
そこには私服の女の子が居た。
そっか。もう一般入場者が校内に入っている時間か。
女の子と目があった途端、彼女はにこやかにこちらに手を振ってきた。
「(だ、誰だろう?)」
見覚えのない女の子だった。なのについ僕はギョッと驚きを示してしまった。
年は恐らく僕と同じくらい。身長は僕より少し低め。雨宮さんと同じくらいだろうか。
僕が驚いたのは女の子の容姿を見てだ。
めちゃくちゃ目を引く綺麗な黒髪。肩下くらいまで長い髪をサイドテールでまとめている。
上品な黒のトップスに白いロングスカート。
大人っぽい服装とは相反するように肩には大きなバックを背負われていた。よく見ると僕の好きなアニメのキャラの缶バッジでたくさんデコられていた。
大きな目。少し幼さを醸し出す容姿。整った顔立ちの女の子が満面な笑顔で手を振っているものだから、その光景は天使の微笑みに見えた。
まるで小説から飛び出してきたかのような美少女が目の前にいるのだ。そりゃあ驚きで肩も震えるよ。
こんな極上の美少女が僕なんかになんの用なんだ。
ていうか普通に人違いの可能性が高いか。こちらは見たことないし、それに僕もこんな可愛い知り合いが居るなら絶対忘れるはずがない。教室中の視線を全て集めているくらい天使みたいな子だし。
僕は緊張の面持ちで少女の前まで歩み寄る。
そして声を震わせながら
「あ、あの、どちら様で――」
「キュウちゃああああああああああああああああああん!!!!!!」
耳を裂くような大声と共になんてことか彼女は僕に思いっきり抱き着いてきた。
「うぉぉっ!?」
勢いありすぎて転びそうになるが、ギリギリの所で持ちこたえる。
「キュウちゃん! キュウちゃん! キュウちゃ~~ん!」
「うをををををぉ!?」
僕の胸元に顔を埋め、女の子は全力で頬を摺り寄せていた。
突然の、あまりにも突然な彼女の行動に頭の中が一瞬真っ白になる。
「「「「………………」」」」
それはクラスメイトや雨宮さん達も同じようだった。
全員が口を半開きにし、目を真ん丸にしている。
雨宮さんに至ってはその状態のまま大きく震えていた。
「キュウちゃん! キュウちゃん! やっと会えた! やっと会うことができたよー!」
少女は嬉しそうに頬ずりを加速させる。その瞳には薄っすら涙が浮かんでいた。
ハッ! いつまでも呆けている場合ではない。
見覚えのない美少女。だけど僕にはその正体は見当ついていた。
僕を『キュウちゃん』なんて呼ぶ友達――いや親友は一人しかいなかった。
「し、雫!? しずくなの!?」
「わーい! キュウちゃんだ~!!」
顔を上げ、嬉しそうに飛び上がると今度は僕の頬に自分の頬を摺り寄せてきた。
「~~~~~~~~~~~~!?!?!?!?」
あまりにも……あまりにも強烈なスキンシップに、もう一度僕の脳内は真っ白になったのだった。
「えー、こほん。いいかい、しずくさんや」
「あ、あはは。大丈夫わかってます。会っていきなり頬ずりは無かったよね。えへへ。ごめん」
暴走列車状態だった雫の燃料が切れたタイミングで教室の隅に座らせ、その体面に僕も座って向かい合う。
ちなみに教室中の視線は依然として僕と雫に集中している。
「でも想像通りの顔で安心したよ。いや想像以上に可愛いかな。キュウちゃん可愛い」
「可愛いは雫の方でしょ。何その美少女っぷり。自分の可愛さを自覚してから頬ずりして欲しかったよ」
「~~~~!! い、いきなり口説くとは、うん。間違いなくキュウちゃんだコレ」
手で顔をパタパタ仰ぎながら失礼な物言いをする親友。
どうして僕はナンパ野郎みたいな謂れを受けなければいけないのか。理不尽である。
「ていうか急に現れてビックリしたよ。来るなら来るって言ってくれればよかったのに」
「えへへ。キュウちゃんと初めて会うときはサプライズ登場するって昔から決めていたので」
「驚きすぎて心臓に悪いよ。ていうかよく僕を見つけられたね? 顔も知らなかったはずなのに」
「でもクラスは教えてもらっていたでしょ。文化祭開始直後は絶対自分の教室にいるだろうなと踏んで入場開始と共にスタートダッシュでここまで駆けつけたのだ~」
「高校の文化祭で入場ダッシュかますのは雫くらいだよ。でもよく僕がわかったね」
そういうと、雫はちょいちょいと自分の右頬を指さしていた。
つられて僕も自分の頬を触ってみると包帯の感触がそこにあった。
「雫ちゃんミッションをきちんと遂行してくれてありがとうキュウちゃん。おかげで特徴的で見つけやすかったよ」
なるほど。こんな大きな包帯をホッペにつけているのはよほどの偶然でもない限り他に居ないだろう。
「――ちょっと良いかしら?」
不意に後方から声を掛けられる。瑠璃川さんの声だった。
雨宮さんと瑠璃川さんが恐る恐る近寄ってきていたみたいである。
瑠璃川さんは不思議そうな顔をし、雨宮さんは僕と雫を交互に見る仕草を取っていた。
「もしかして……いえ、もしかしなくても雪野君の友達……よね? 他の学校の方かしら?」
「わわ、すっごい美人さん!」
目を見開いて驚く雫。
「え、えと、えとえと、初めまして! 水河雫と言います! よ、よよよ、よろろしく!」
やたらおどおどしだす雫。
なんだ? 先ほどとは急に態度が一変した様子だ。
これはもしかして……
「雫ってもしかして緊張しい?」
「う、うっさいよ! こんな美人に声を掛けられたら誰だってあたふたするでしょ! 私は奥手なの!」
意外過ぎる一面だった。
根っからの元気っ娘のイメージがあったから人付き合いは得意なのだと勝手に思い込んでいた。
「楽しい人ね。初めまして。私は瑠璃川楓。雪野くんのお友達よ」
「うぇぇ!? キュウちゃんにこんな美人な友達が居るだなんて!」
「水河さんも雪野くんのお友達でしょう。お友達同士ね」
「ふっふっふ。瑠璃川さん。それは違うよ。私とキュウちゃんは友達なんかじゃないよ」
「そ、そうなのですか!!??」
今までずっと黙っていた雨宮さんが不意に声を大きく荒らげた。
「わわっ、びっくりしたっ!」
「あっ、ごめんなさい。急に大きな声を上げてしまって。そ、その、わ、私も雪野さんと仲良くさせて頂いております雨宮花恋と申します。よ、よろしくお願い致します」
「わわわわっ! 超可愛い! めちゃくちゃ可愛い! どうしようキュウちゃん。私、この子好み!」
「好みなのは僕も同意だけど、ちょっと落ち着いて。雨宮さん怖がってるでしょ」
雨宮さんの顔が徐々に朱に染まっていく。
この中で最も緊張しいなのは恐らく雨宮さんだろう。きっと緊張で紅潮してしまったのだ。
「ねぇ、瑠璃川さん。キュウちゃんって皆に『こう』なの?」
「ええ。みんなに『こう』よ」
なぜか雫と瑠璃川さんが呆れた表情でこちらを睨んできている。
な、何? どうして僕は2人に呆れられるような視線を向けられているの?
「とにかく、よろしくね雨宮さん」
「あ、は、はい。よろしくです」
初対面同士握手を交わす雨宮さんと雫。
「美少女同士の握手ってどうしてこんなにも絵になるのか」
「「ちょっと黙っててもらえます?」」
正直な感想を述べただけなのになぜか委縮する羽目になってしまう僕であった。
―――――――――――――――
キャラクター紹介
◆
代表作『大恋愛は忘れた頃にやってくる』(文章)
人気投稿小説サイト『小説家だろぉ』にて『平凡小説家~異世界に渡りペンで無双~』を執筆中。
『だろぉ』での著名は『ユキ』
◆
代表作『大恋愛は忘れた頃にやってくる』(イラスト)
現在は弓野ゆき作品『平凡小説家~異世界に渡りペンで無双』の挿絵を執筆中
親友である雪野弓を『キュウちゃん』と呼ぶ
◆
代表作『才の里』
ノンフィクション恋愛小説執筆を検討。
現在は地の文の無い『7000文字』を書き直し中
◆
趣味で創作活動を行っている。出版作は無し
自分で挿絵も描ける。文章とイラストの二刀流スタイル
クラス内で人気が高い
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