クラスごと異世界召喚されて一人だけ悪の女王の奴隷になったら、超高性能ホムンクルスに魂を移されたので、王国魔法学園で無双する

燕鳥高度

プロローグ 異世界召喚

「選べ。我の奴隷となるか、敵対し、いずれ殺されるか」

 その日、俺は運命の出会いを果たした。



 クラス丸ごとの異世界転移に巻き込まれ、世界が白に染まる。光が徐々に薄まり、視界が定まろうとした時、

 一転、俺たちは暗黒に包まれた。

「割り込まれた――っ!?」

 どこか遠くで、クラスの誰のものでもない、美しく透き通るような声が響いた気がした。

「え?」

「な、なんだ?」

 足元に巨大な魔法陣が現れて、光に包まれるという意味不明な状況から、さらに不穏な空気が漂い、皆が戸惑う中。

 彼女は、君臨した。

「選べ。我の奴隷となるか、敵対し、いずれ殺されるか」

 彼女は、とても美しかった。黒い髪、黒いドレス、黒い王冠。全身を黒で染め上げた中で、その眼だけが怪しく光る血の色をしていた。

 皆が直感する。浮遊し俺たちを見下す彼女との決定的な格の違いを。誰かが後ずさり、隣の女子がへたり込む。彼女のまとう力はあまりに異質で、ともすれば禍々しいとさえ感じるものだった。

 皆が恐怖し言葉を失う中、俺は一歩前へ出て、口を開こうとし、

「ダメです!皆さん、彼女に従ってはいけません!」

 先ほど遠くで響いた声が、今度はすぐ近く、俺たちを挟んで黒の彼女の反対側に現れた。皆がそちらを向く。黒の彼女は、薄く微笑んでいた。

 パチリ、と目が合った気がして、反射的に目を逸らす。心臓を鷲掴みにされたような感覚に、ぶるりと身を震わせ、皆に遅れて声の方を向いた。

 声の主は、白くあたたかな光だった。黒く恐ろしい彼女とは真逆のそれに、皆は救いを見たようだった。

「皆さん、私の話を聞いてください!皆さんをお呼びしたのは、私たちセイフィード王国。私たち人間の国は、魔の軍勢に脅かされています。皆さんの、勇者様のお力をお貸しください!」

 光は一度言葉を切り、皆が理解するのを待って、続ける。

「彼女は魔の女王、人類の敵!魔を支配し人類を害する悪しき女王です!

 魔に対抗する力を持った皆さんの存在を危惧して、召喚の儀式に割り込んできたのです。彼女の奴隷になどなれば、どのような扱いを受けることになるか…!

 皆さん、こちらへ!急いで!」

 黒の女王は、反論しなかった。いや、する必要はないのだと、言うべきことは既に言ったのだとばかりに、笑みを湛えて光の演説を聞いていた。

「俺はこっちに行くぜ。奴隷なんてごめんだ!」

 クラスの中心人物、坂井が白の光へ駆け寄ったことで、全員の心が決まった。

 続々と、黒の女王から逃げるように、クラスメイトたちは光へ駆け寄っていく。たった一人、俺だけが、もう一度黒の女王へ近づき、頭を垂れた。

 光が皆を包み、強まっていく。

「貴女に従います」

「なっ…藤岡!?」

 光はひときわ強く瞬くと、背後のざわめきと共に消えた。


「お前を歓迎しよう。名を名乗れ」

「藤岡理央です」

「では、リオ。手を」

 女王に差し伸ばされた手を捧げ持つと同時、意識が暗黒に塗りつぶされた。



 目が覚めると、研究室らしき部屋で椅子に座っていた。いくつかある机の上には、書類が山積し、器具が並んでいる。壁際にある棚には様々な器具・機材や薬品らしき瓶が並んでいる。瓶に張られたラベルの文字は、初めて見る形をしていた。

 そんな部屋の中心、眼前に彼女がいた。彼女、黒の女王がこの部屋の主なのだろう。白衣を羽織った姿は、先ほどの印象とは少し異なるが、不思議と似合っていた。

「目が覚めたか。どこか痛むところなどはあるか」

「いえ、どこも…ここはどこですか?」

「そのあたりを説明する前に、まずは自己紹介といこう。

 我が名はクロエ・フォン・サタナキア。マムル皇国の皇帝だ。そして、お前の主であり、親となるものだ」

 女王ではなく、皇帝だったのか――そんなどうでもいいことが浮かびながら、意味が解らなかった言葉をオウムのように繰り返す。

「親…?」

「奴隷とする、と言っただろう。初仕事として、お前には肉体を替えてもらう」

 皇帝が目の前に立つ。その肢体に目を奪われるのも束の間、そっと頭に触れられた。

「――――、――――、――――」

 未知の言語が唱えられると、と彼女の手が、リオの頭に沈んでいく。痛みはないが、自分の存在そのものに触れられているような、異様な感覚があった。この状態が続けば気が振れてしまうのではないか。そんな危機感を伴う感触であった。

 だが、それも長くは続かなかった。幸い、とは言えないかもしれないが。

「――――、――、――――、――――!」

「ァァアアアアアアアア!!!!!」

 絶叫が迸る。魂が掴まれ、削られている。否、。ガリガリと、意志が、存在が、魂が、上書きされていく。ああ、わかる、理解できる。俺は、彼女のものとなったのだ――


「――ィオ、リォ、リオ!」

 はっと意識が浮上する。場所は変わらず、研究室。目の前の彼女が、ぺちぺちとほほを叩いていた。

「はい、大丈夫、です。今のは…」

「魂に隷属紋を刻んだ。何、単に我の命令が絶対となっただけで、人格が大きく変わったわけではない。これから変わる可能性は大いにあるがな」

 それはそうだろう。あらゆるものに優先される強制命令者の存在が与える、精神、ひいては人格への影響は無視できないだろう。

 …今それを考えても仕方ない。意識を失う前の会話を思い出す。奴隷ということの他に、彼女は奇妙なことを言っていなかっただろうか。

「それで、あの…クロエ様?親というのは」

 そういえば何と呼べばいいかを聞いていなかったことに気づく。言葉に詰まって結局名前で呼んだ俺に、クロエ様はひとつ瞬きをして、笑った。

「ふむ。まあ、子となるものであるし、名を呼ぶことは許そう」

 もしかして、不敬罪一歩手前だったのだろうか。いや、クロエ様の笑顔は、不快というよりは、意外そうで。

 ドキリ、と心臓が跳ねる。これは、刻まれた隷属紋の影響か、いや――

「説明しよう。ついてこい」


 扉を一つ潜った先は、手術室のようだった。中央に二つ、手術台のようにベッドが並んでおり、その片方に、裸の青年が横たわっていた。

 青年は、高身長に長い手足、鍛えられた肉体をしており、それだけに飽き足らず、とんでもないイケメンだった。優男ではなく、彫りの深い野性味溢れる荒々しい容姿をしていた。だが、

「生きて、ない…?」

 彼からは生気が感じられなかった。見たところ大きな傷跡は無い、処置も虚しく病で息を引き取ったのだろうか。

 異様な状況の説明を求めて振り返れば、真剣な表情をしたクロエ様と目が合った。

「これが、お前の新しい肉体だ」

「え?」

 それはいったい、どういう…。いや、確かにさっき、肉体を替えると言っていたような。

「これは、我が開発した人造生命――ホムンクルスだ。皇国の技術の粋を集めて作り上げた傑作品。理論上世界最強となりうる潜在能力を有している。そして、この器に魂を入れれば完成する、のだが」

 クロエ様がホムンクルスを愛し気に撫で、ため息を吐く。その手つきから、への本気度が伝わってくる。

「適合する魂が見つからなかったのだ。あらゆる人種の老若男女、数百人を試したのだが…誰一人定着しなかった。そこで」

 人差し指で胸をトン、と突かれる。

「王国が異世界から人間を召喚する、という話を聞いてな。異世界人ならあるいは、ということで、儀式に割り込んだというわけだ」


 そんなわけで、俺は今裸の男ホムンクルスの隣のベッドに寝かされ、手足を縛りつけられていた。クロエ様曰く、魂の色的に適合する確率は高いらしい。また、失敗しても死ぬわけではないようだ。

 隷属紋が刻まれている以上、拒否権は無いのだが、怖いものは怖い。なまじ隷属紋を刻む際に魂を触れられた経験があるため、より現実的な恐怖になっている。

 ここまで、見栄を張って淡々と受け入れた風を装っていたが、遂に耐えきれなくなった。どうにでもなれ、という思いで震える口を開いた。

「あの、クロエ様。この歳になって恥ずかしいお願いなのですが…手を握っていてくれませんか」

 クロエ様がぱちり、と瞬きをする。そうしていると、強く凛々しい印象が弱まって、かわいらしくなる――そんなことを、現実逃避に考えた。

「ふふっ」

「っ」

「仕方ない、特別だぞ。――さあ、目を閉じろ。始めるぞ」

 ああ、そうか。なぜあの時、この手を取ったのか。隷属紋なんてなくても、俺はとっくに…


『    』

 声が響く。紡がれた呪文が、世界の形を変えていく。膨大な魔力が励起し、集約し、注ぎ込まれる。

 恐れていたような痛みは無かった。

 むしろ、あたたかく心地良い。

 やわらかな何かにそっと抱き上げられて。

 そう、それはまるで、握られた手の感触に似て――



        プロローグ、終



――――――――

TIPS:隷属紋

 奴隷や王族の護衛などに刻むもの。

 膨大な魔力を必要とするため、一般に広く使われるものではない。

 通常は肉体に刻まれる。



~~~~~~~~

『第1話:武術指南』は近日公開予定です。

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