1部 お嬢様の病は・・・

第2話 その卵を運んで・・・

今日も今日とて仕事を終えて帰る。

つまらない日常に飽きて、しかしそこから抜け出すすべを俺は未だに知らないと、変な中二っぽく思っていたする。そんな自分に気恥ずかしくなるが、心の中くらいいいのではないだろうかと思っている。


しかしそれは突然だったのかもしれない。

土砂降りの雨の中、車での帰り道に対向車線からはみ出て来たトッラクが目の前に迫っていたのだ。

俺は焦ってハンドルを切ってしまった。

ガードレールを凹ませそこから車はドン!という音とともに空を飛んだのだ。


「うわぁぁぁぁぁ。」と思わず大きな声を出してしまう。

その衝撃で割れるはずのないフロントガラスが割れたね。

それだけならよかったのだが、驚いて口を大きく開けてしまったのがまずかったのかもしれない。

そのまま車は一回転二回転、そして俺は叫びながら、近くを流れていた荒れ狂う川にドボンした。

叫んでいたこともあって、水を大量に飲み込んでしまった。

もがいて手を伸ばすが、溺死だったと思う。


そんな時、空から一瞬辺りが真っ白になりドゴォォォォン!という音が辺りに響いた。落雷のはずなのに雷の竜が俺を口に含み飲み込んだ。

そこで俺は〝人生〟を終えたのだった。


それは白い大きな卵だった。


なんの因果かものすごい嵐がきて巣からこぼれ落ちたのだろうか。

その衝撃でおむすびころりのように、高いところからころころから、だだだだだだだだだだと転がって崖からジャンプ台のように飛んだ。飛んだ先が荒れ狂う川だったようで、ドボンとそのまま流されていく。


ぴかっと共にその卵は雷の竜に打たれた。

白い卵は真っ黒こげになる。真っ黒焦げのはずの卵は黒く染まり、まがまがしくも見える。食べようとした大きな魚のモンスターがその威圧だけど食べるのをやめたほどだった。


遠くでは親の白竜が帰ってきて卵の数が減っていることに気付く。

悲しみ、どうしようかと想い悩む。


しかしどうすることもできないと頭のいい親竜は思う。

これも運命の導きなのかもしれない。

今は残っている6つの卵を育てるしかないと慈しむように残りの卵を見て温めようとする。いつか必ずまた会えると信じるしかない。


ただ親竜の悲し気な悲鳴が辺りに木霊していたとか・・・


嵐の中、黒い卵はどんぶらこ、どんぶらこと流れて行き、段々と緩やかな川の流れになって、ツンツンと小魚が卵と戯れたりしている。

段々と小魚の数が増えていき、その影響か川岸に向かって流れていくのだった。


休憩がてら休んでいた商人が川を見ていた。

「うん?」何か流れてきていると気づきそれを拾い上げる。


それは卵だった。


商人は思ったこれは魔獣の卵、領主に献上し己の出世の道具にしようと、ただこの領は魔物が多く、出世をしたところでどこまでいけるものか?と考える。

まぁどんな魔物が生まれるかわからないが・・・


「カルマ!」と冒険者風の女を呼んだ。

「はいなんですか?」


「この卵を持っておけ。」

「はぁ。」と戸惑っているようだ。


「領主に渡すもの故割ったりするなよ?」と脅す。

「そんな大事なものを持つだなんて。恐れ多い。」と正直魔物の卵なんて恐い。

「これを弾むからよろしく頼む。」そう言って親指と人差し指で〇を作った。

「はぁ、わかりました。」卵をおんぶ紐で結ぶ。

「こんなものかな?以外に軽いのかな?」と歩きやすいか等確認している。


「ほら行くぞ。」商人の馬車はゆっくりと出発した。


彼女に魔力がまとわりついているとは知らずに・・・そんな道中、私たちはあいつらに襲われる。


「出たぞ!戦闘準備!」

そいつらは緑の体をした怪物(ゴブリン)だった。


「くっそ!こいつら強いぞ、ぐわー!」一人がゴブリン4体くらいに襲われ怪我を負っている。

死んだかもしれない。


商人も先に馬車を走らせ逃げているが、ゴブリンが待ち伏せしていたのだろう。数十匹のゴブリンに襲われている。あれでは助からない。

私もどうにかしなければ殺されてしまう。


何とかばれないようにと祈りながら、草むらに隠れるしかない。


そんなとき上空を何か大きな影が横切っていく。

ゴブリンはそれを見た瞬間逃げ出した。


私はばれないように、ばれないようにと祈りながら、それから一時間近く草むらに隠れ続けた。


何も音がしないと気づき、あたりを見渡す。

馬車の付近を見て回ると生きている人の気配がない。


「皆、死んじゃった。」そう言って冥福を祈るように手を合わせる。

こんなことは日常茶飯事。モンスターは強く人間は弱い。

無力な自分の力を嘆く。


「私は生きる!絶対にお前たちの分まで!さよなら親父。」

涙ながらに私を拾って育ててくれた商人、親父の亡骸に向かって言う。


「許さないあのゴブリンたちを倒す!」そう決意して、私は領都に向かって歩き出した。


そんな領都は城壁がボロボロになっていた。

「一体何があったんだ。」急いで城門までいく。


城門の片側のドアが壊れ、空いていた。

門番はぐったりとうつぶせになっている。


「おい、しっかりしろ。」

「あ、旅人の方か?こんな時に来るとは運がなかったな。」

ぐったりしながら答えてくれる。


「一体、何があったんだ?」

「ゴブリンの群れに襲われたんだ。」と思い出したのか恐怖を感じて震え、顔が青ざめる。

「ゴブリンの群れだって!あいつらか!」小隊を襲っていた奴らのことを思い出す。復讐の思いでいっぱいだが、まずは自分の命と思い心を落ち着かせる。


「率いていたのは・・・ゴブリンキングだった。」と絶望したように言う。

「ゴ、ゴ、ゴブリンキング!!!」ゴブリンキングって言ったらゴブリンの最上位種じゃないか、そんな奴が街を襲ったのか。この惨状もうなずける。


「ああ。あれは悪魔だった。俺たちは全員死ぬと思った。」と絶望を口にする。

「・・・」何も言えない。私がゴブリンキングに挑んだら確実に一瞬で死ぬだろう。そこまでヤバいモンスターなんだ。


「だがそのあとに、あいつが現れた。」とさらに顔を青ざめさせる。いやもう白くなっている。

「あいつ?」

「ああ〝龍〟だ!上空を通過して行っただけだったが・・・それを見たゴブリン達は逃げ出した。俺らがなんとか生きていられるのはあいつのおかげだ。」とその時のことを思い出してカタカタと震える。


「・・・」


まったく怖い話だ。

こんな辺境では人間の価値なんてちっぽけなアリのような物でしかない。

そう大自然が言っているようなものだ。

辺りを見回せば森が広がり、いつどこでモンスターが出てくるかなんてわからない。

よく見れば視線を感じる未だ偵察に来るモンスターがいるのかもしれない。


「モンスターに襲われてモンスターに助けられるってのはな。なんといっていいのか。」疲れて困った顔をする門番。

「心中お察しします。」

私もさっきまで護衛していた商隊が亡くなっているので気持ちがわかる。


「ゴブリンはまた来るかもしれない。お前も早くここから逃げたほうがいいぞ。」

「いえ、大丈夫です。はい冒険者証です。」一応営業スマイルをする。


「D級冒険者か。その年でそれならもっと上までいけるかもな。」感心する門番。


「ありがとうございます。まだまだなりたてなので・・・」

「そうか、ああ、中は瓦礫でいっぱいだから気をつけろよ。人死には出てはいないが、食料は不足してるからな。諍いに巻き込まれないように。」ぐったりしている門番は最後。


「ようこそ冒険者カルマ。辺境都市ラドルガへ。」笑顔を浮かべ疲れた様に眠り始める。


緊張の糸が切れたのかもしれない。死んでないよな?一応寝息を立てている。

モンスターたちが近くにいるのに寝れるのは辺境故の強いメンタルを持っているからだろうか?

起こすのも忍びなくて、そのままにして門を潜った冒険者カルマ。

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