天気快晴!!
カカシ
第1話 1レーン
非常に晴れやかな天気の下、スピードを上げて自転車を漕ぐと共に、すがすがしい風が頬を掠める。そんな中、自分の前に、リスが道を横断して行くのに気づいた。慌ててブレーキをかけると共に、けたたましいブレーキ音が辺りに響く。すぐさま地面に両足を着き前を見ると、目の前にはその影はない。そんな中、うっすらと感じる気配に目線を向けた。するとリスが枝の上からこちらの様子を伺っている姿を捉える。とりあえず轢かずに済んだ事に胸をなで下ろし再度ペダルに足をかけた。先程より、スローではあるが漕ぎ始め、ものの数分でとある建物の裏口に辿り着く。自分は自転車から降り辺りを見渡す。呼び出しベル類の物は見当たらないが、窓は全開である。雰囲気的に人はいるようだが、どうしたものだろうかと思考をめぐらせ、辺りを見回している時だった。
「どなたかな?」
室内からいきなりの声に、背筋を伸ばす。すると、160cmぐらいの白髪の男性が暗がりの入り口から出てきた。
「あっ、あの俺。今日からここでバイトさせてもらうことになっている」
「ああああ。滝さんの替わりの。茂宮げんじ君? だっけ?」
「健吾です」
「あああ。そうそう健吾君。すまないね。この年になると物忘れが激しくて。じゃあ、自転車はその端に止めてもらって良いから」
「はい」
返事をし、指定された場所に自転車を置く。そして足早に男性の前へと立った。
「茂宮君は、動きが機敏ですね。若いって良いですねやはり。あっそうそう。私の自己紹介していませんでしたね。私はここの統括責任者みたいな事やってます米内秋貞と言います。わからない事とかありましたら聞いて下さい。まあでも基本的に現場でバリバリやってる人達に聞いた方が良いかもしれませんね」
その話の矢先、自分の背後から気配を感じ振り返る。すると、自分の身長174㎝より、少し高身長。服のシルエットからも垣間見える、バランスのとれた筋肉。その上、しなやか黒髪に奥二重の今時の塩顔と言う、ハイスペックな男性が目の前に現れのだ。その彼はジョギングをしてきたらしく、軽く息の上がっていたものの、自分達に軽く会釈をした。
「大河君。丁度良かった。今日から君達と一緒にプール監視員をしてくれる茂宮健吾君です。私も勿論教えますが、大河君。彼が慣れるまで健吾君の教育役お願いしてもいいですか?」
「来ていきなりですね」
「はははは。でも私は一番の適任者だと思いますけど如何ですか?」
「そこに拒否権あります?」
「ほぼ無いです」
「ですよね」
首に巻いていたタオルで、軽く汗を拭いながら、自分の前へと立つと、右手を指しだした。
「実々瀬大河だ」
「は、初めまして茂宮健吾です。よろしくお願いします」
軽くお辞儀をしつつ、その手を取ると、彼は、米内に一声かけ、自分をその建物へ入るよう促す。それに従い、室内に足を踏み入れると、薄暗い室内は外見からも想像はしていた以上に年期が入っていた。壁の塗装剥がれから始まり、重たそうな窓サッシ。挙句の果てには、昭和のドラマでしか観たことがない黒電話という代物までおいてあるのだ。
「なかなかの感じですね」
「しょうがない。管理棟含めて市の運営だからな」
そう言うと、渋い音を出しながらドアを開けた。
「ここが更衣室になる。基本は、来たら入り口のタイムカードを押してから、ここに向かう。休憩はここでは、1時間で10分休憩。ローテーションになる。場所は、自転車置き場の横にあったベンチか、さっき通り過ぎた自販とチェアセットのあったサークルスペース。米内さんは入って直ぐの事務所か、プールサイドのどこかだ」
「はい」
「因みに今この更衣室使っているのは俺含めて4人。結構空いているから、中確認して扉に印とか付けて好きに使ってくれて構わない。時に茂宮」
「健吾で良いですよ」
「分かった。因みに少し聞くが健吾、お前講習や資格は?」
「とりあえず、基礎と、水上安全1。それに短期講習受けてきました」
「……そうか」
実々瀬の着替えている背後で、ロッカーを物色していたせいもあり、表情が読みとることは出来ない。が、先程よりテンポのズレた反応に少し違和感を感じチラリと背後を見る。すると、既に着替えを終えようとしている彼に慌てて、自分も着替え始めた。
「す、すいません。直ぐに着替えます」
「ああ。そうしてくれ」
「それにしても、実々瀬さん。良い体付きしてますよね」
「あまり自覚はない」
「そうなんですか!! 俺なんか自己流すぎるのかな…… 実々瀬さんはどうやってトレーニングしてるんですか?」
すると彼はバタンとロッカーを閉めると同時に、自分を一目する。
「その回答は、俺よりも適任者がいる。その人から聞いた方が早いかもしれんが、聞く間でもないかもな」
「えっ。どういうことですか?」
「まあ直ぐ分かる。とりあえずもう着替えは済んだが?」
「はい!! 行けます」
そう答えると、勢いよくロッカーを閉めると同時に彼の後に続き更衣室を出る。そして元来た通路を一部引き返すと、サークルスペースの奥へと進む。そこには壁には赤いジャケットが掛けられ、目の前には磨り硝子から日差し差し込む両開きのドアがあった。すると、前を歩いていた実々瀬が立ち止まり、後ろを振り向き、自分に視線を送る。
「健吾。ここから先はプールサイドになる。これから健吾がやるべき事は、来場者が何事なく、楽しんで帰ってもらえるようにする責任と、もし、要救助者が出た場合、迅速且つ正しい判断と行動が伴われる。その上で体調管理は重要だ。助ける側のコンディションが悪い事によって下手をすると両者が命を落とす可能性もある。だから、俺が教育係になった以上、厳しく事に当たる。その辺りを重々承知の上、こらからやっていってもらいたい」
キッパリと言い切った口調と共に、凄みのある眼差しが自分に向けられる。その姿勢に彼からの強い想いがヒシヒシと感じとれ、思わず息を飲む。そして改めて言われた意味を重く受け止めながらゆっくりと頷く。
すると、壁に掛けてあった、ジャケットを手渡され、着用するように促される。そして目の前のドアを一気に開けられた。
「ようこそ、千代市市民プールへ」
全開に開かれてドアから、一気に夏らしい強い日差しが差し込む。今までの暗がりの反動で、目が一瞬眩んだものの、徐々に視界がはっきりしてきた。
※※明日20時30分以降更新。烏滸がましいですが、星、感想頂けると至極嬉しいです※
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