オタクの皆さん、お仕事の時間です
豆木 新
第1話 変わる世界
「……なぁ。俺は今、夢でも見てんのかな」
「知らねーよ。ただ、夢を見てるなら俺とお前が会話できるのはおかしい」
隣で俺と同じく不思議現象に遭遇している、小学生以来の親友に思わずそう聞いた。
「……そんな現実的な答えは求めてねーですが」
「だったら俺に聞くなよ。むしろ、俺がお前に聞きたいくらいだ」
__んなこと言われたって。
こちとら、お前にいきなり連れてこられただけで何も知らねーよ。
と、言ってしまいたいのを我慢しつつ、目の前のクレーターに目を向ける。
たった350gの石ころが空から落ちてきただけで、ヒト1人が簡単に入れそうなくらいの穴が地球に空く__。恐ろしい破壊力だ。
「隕石って……怖いな」
そんな、生物には到底出来ないであろう破壊を前に、しみじみと呟いた。
その呟きに俺の親友は、まるで日本に危機が迫っているかのような物言いで、ツッコミを入れてくる。
「この状況においてその感想はないだろ! お前には穴から出てくるスライムが見えてないのか⁉︎」
「いんや? バッチリ見えてっけど」
「だったらこの状況をどうにかしろ! その為だけにお前を連れてきてんだよ!」
「いや、無理っしょ。俺にどうにか出来る訳ないだろ?」
それはお前が1番知ってるはずだ__という視線で、親友を見た。
それを受けた親友はというと、物凄い形相で俺を睨み返してから、例の「スライムが出てくる」隕石落下地に目を落とす。
なにやら、不穏な空気を醸し出して。
「__なら、お前はもう捨てるしかないな。今まで友達だからって泊めてやってたけど、今日でお終いだ。出てけ」
「ちょ……ちょっと待てよ! 流石にそれは鬼の所業過ぎるだろ!」
職無し無一文の俺を、なんの前触れもなく追い出すとは、心が無いのか。コイツは。
「それが嫌なら……コレをなんとかしろ。じゃなきゃ追い出す」
「んな……無茶な……」
追い出されたら間違いなく死ぬ。死ぬのは嫌だ。
となると俺は、親友の言うことを聞くしかない訳だが__。
流石に、「隕石落下地がダンジョン化した」なんて言う前代未聞の事象を何とか出来るわけがない。
何てったって俺は、ただのニートなオタクでしかないのだから。
何なら、今まさに這い出てくるスライムにすら殺されそうなほど、俺は貧弱なわけで。
「俺にコレをどうしろと……」
「お前、前に俺が働けって言った時に言ってたよな。「俺は有事の時のために体力温存してるんだ」って。今が有事の時だろ」
親友にそう言われて、俺は過去の自分を殺したくなった。
仕事がしたくないからと言って、テキトーな理由をつけるもんじゃない。
__俺のように、後々後悔したくないのなら。
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