第11話 出会い
「さて、次の行先は
「ここからはそう遠くないね」
僕がそう言うと、彼女は満足げに頷いた。何に満足しているのだ、一体。
「それはそうと、今回は行くの3月になってもいい?」
「ああ、仕事の方が忙しい感じ?」
そう言うと、彼女は困り眉のまま頷いた。
僕と彼女は会社は同じだけど、部署が違う。だから、忙しい時期や内容も大幅に変わってくる。
「勇那くんは、3月でも大丈夫そ?」
「うん、ギリギリではあるけど」
こっちはだいたい4月ぐらいから忙しくなってくる。3月内に行くのであれば、大丈夫な範囲だ。
「なら、決まりだね」
◆
「暖かくなったね〜」
3月、美海の方の繁忙期も終わり、ようやっとホエールウォッチングに行く日になった。
3月と言っても、随分と遅くなってしまい、桜の
けど、4月も目前だからか、だいぶ暖かくすごしやすい。このぐらいの気温が一番いいのだ。
「さて、乗りましょ〜」
船の上では沈黙が続いている。気まずいからじゃない。僕が一方的な想いを寄せ、なにも話せないでいるからじゃない。
『イルカも鯨』だと教えてくれた人が誰なのかを考えているのだ。
「……ねえ」
「あ、ごめん」
「さっきからなんで喋ってくれないの?」
「ああ……いや、考え事を…………」
そう言うと、彼女はさらに頬を大きくする。
「も〜」
むくれる彼女に対し、もう一度謝った。
それから数時間後、黒い影が見えた。と、同時に、彼女が話しかけてくる。
「ねえ」
「ん?」
美海はまっすぐこちらを見据え、真剣で寂しげな眼差しで見つめてくる。
そしてゆっくりと口を開ける。
「––––昔、勇那くんと会ったことがあるって言ったら、驚く?」
「…………え?」
会ったことがある? 美海と? そんな記憶はない。僕だったら忘れている可能性もあると思うが、やはりにわかには信じ難い。
「……いつ?」
「中一の時。勇那くん、入院してきたことあったでしょ、脚の骨折で」
「あ……」
思い出した。当時、階段の踊り場で騒いでいた男子たちが、たまたま階段を降りていた僕にぶつかり、脚の骨を折ったことがある。
幸いにもそれだけで済み、大事には至らなかったけど、入院は必要だと言われたので、入院することになった。
そこは相部屋で、もう一人女の子がいたんだ。暗くて青い、ボブぐらいの髪をした––––美海が。
◆
初めて入った病室は、思っていたよりも広かった。いくつかベッドが並んでいる。僕は3個並んでいるうちの真ん中を指定された。
「はじめまして! キミのお名前は?」
僕の隣のベッド、一番窓際にいる女の子が話しかけてきた。
子どもっぽくて元気そうな子だけど、目の奥には輝きなんてものはなかった。
「……初めまして。安海勇那です」
「いくつ?」
「12です。今年の12月に13歳になります」
僕がそう言うと、彼女は「じゃあ同い年だ」と、嬉しそうに笑っていた。
そんなものお構い無しに反対の方向へ顔を向けると、彼女は心底驚いたような顔をした。
「ちょっと、私の名前は聞いてくれないの〜?」
なんなんだ、初対面でいきなり馴れ馴れしい。無視していると、ボブの少女は自分のベッドの上から僕のことをずっと呼んでくる。
「せっかく久しぶりに同年代の子が来てくれたのに……」
その言葉に少し反応した。そんなことを言われてしまえば、良心が痛むではないか。
少しだけ少女の方を見ると、バチッと目が合ってしまった。目が合った彼女の顔は、みるみる晴れやかになっていく。
しまったと思ったけど、もうこうなってしまった以上は引き返すことなどできない。
「はあ……、君の名前は?」
「夕凪美海だよ! ねえ、知ってる?」
「なんです」
「イルカって鯨なんだよ!」
いきなりのことに、僕は思わず声を出してしまった。
––––なんで急にイルカと鯨の話が出てくるんだ。意味がわからない。
困惑している僕をおいて、彼女は
「あのねあのね、明確な基準はないんだけど、イルカと鯨は大体の大きさで分けられるんだって!」
「そうですか。じゃあ僕は––––」
「あ、あとね!」
まだ話すのか!?
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