猫又商人-妖に童-

夏艸 春賀

声劇台本

《諸注意》

※なるべくなら性別変更不可。

※ツイキャス等で声劇で演じる場合、連絡は要りません。

※金銭が発生する場合は必ず連絡をお願いします。

※作者名【夏艸なつくさ 春賀はるか】とタイトルとURLの記載をお願いします。

※録画・公開OK、無断転載を禁止。

※雰囲気を壊さない程度のアドリブ可能。

※所要時間約15分。不問3の三人台本です。



《役紹介》

猫又商人ねこまたしょうにん/不問

森の奥でひっそりと暮らしている

三毛の山猫だったが、聖域と呼ばれる山で育った為、猫又になった


行商人/不問

行商人になる前、猫又商人の元に来た人間

年齢性別等はご自由に


わらべ/不問

口減らしのために山に捨てられた5〜10才程度の少年

泣いてる


N/不問

ナレーション

雰囲気を大切に



《配役表》

商人(不問):

童/行商人(不問):

N(不問):

※童と行商人は分けることが出来ます。その場合は行商人の出番は少なめです。




↓以下本編↓

────────────────────




「季節は霜月も半ば、山中やまなかであれば気温も低くなり、登る者もそう多くない時分。申し訳程度にある獣道をふらふらと歩く人影が一つ。薄布うすぬの草履ぞうりのみを身にまとい、およそ山登りとは無縁の出で立ちのわらべは自身の体を抱き締めながらゆっくりと奥へと進んでいく。辺りに響くのは奇妙な鳴き声のような音と、草木を踏みしめる音。昼なのか夜なのか、日の光の届かない山奥では判別がつかない」


「……うぅ……おとぉ……おかぁ……どこぉ……」


「か細く震える涙声は木々のざわめきに消え入る。時折鳴る音に肩をビクつかせながらわらべは歩み続け、更に奥へと進む。濃い霧が立ち込める森の奥深くへ、小さな背中が消えていく」




【間】



「所変わって。ここは村外れの薬屋、木箱を背負った行商人が暖簾をくぐった。店内には所狭しと薬瓶が棚に並び、独特な香りを漂わせている。ほっかむりを鼻の下で結び、匂いを軽減させようとしながら、店の奥へと声を掛ける」


行商人

「猫又様ー、猫又様ー? どこにおるんでー?」


商人

「にゃあんじゃにゃんじゃい、騒々しい!……おぉ、お主は何時いつぞやにょ! 息災じゃったか?」


行商人

「えぇ、どうも久方振りで。猫又様の加減は如何で?」


商人

「うむ! 儂は何時でも何時までも元気じゃぞい! ようやく思い出したんじゃにゃ、願いを」


行商人

「何年前でしたっけねぇ……やっと対価が用意出来たって事なのやもしれんです」


商人

「ふぅむ……けども、足りるかにょお? ほれ、これじゃ」


「コトリと行商人の目の前に置かれたてのひらに納まる程の小瓶は、淡く光を灯しているように感じる。よくよく見れば光は一つひとつが揺れ動いているのだが、人である行商人の目には淡い光を認識することしか出来ない」


行商人

「……こ、これが……?」


商人

「そうじゃ。お主にょ願った、『生きた化精霊けしょうれい』じゃよ。女子おにゃごにょ美しく在りたいと思ういにょりが宿る精霊じゃ。これがあればお主は大成たいせいする」


行商人

「……おぉ……」


商人

「さぁ、対価を寄越せ」


行商人

「へ、えぇ。こちらに」


「行商人は担いでいた木箱を商人の前に差し出す。値踏みするかの様に目を細めて眺める事数秒、頷きを一つしてから先に出した小瓶よりも一回り大きな小瓶を取り出し、それを行商人のてのひらへと乗せた」


商人

「こちらにょ方が見合うじゃろ。持っていけ」


行商人

「おぉ、感謝いたしやす。それじゃ」


商人

「応、またにゃ」


「行商人は頭を深々と下げた後に店を出て行った。商人は猫の手を揺らして見送り、木箱に触れるとそれは浮き上がり、虚空へと吸い込まれる」


商人

「……さぁて、帰るとするかぁ」


「満足気に頭に着いている耳をピクリと動かしてから店の奥へと姿を消す。村外れに存在していた薬屋は、人の目には映らなくなった」




【間】




「……さ、むい……おとぉ…………お、かぁ……」


「あれからどれだけ歩いたのだろうか。草履は擦り切れて履き物の名残りのみで、服の裾も木の枝等に裂かれてボロボロ。冷え切った体には所々擦り傷があるものの痛みを感じられなくなっているわらべは、ただ一向ひたすら濃い霧の中を歩いていた。霞む視界、ぼやける意識。わらべは何かを悟った」


商人

「──い、たた。あー、染みるぅぅ」


「刹那、耳に届いた声にわらべの足が止まる。山の奥へ奥へと運んでいた歩みを声のした方へと変える」


商人

「古傷に、染みるっ!……ぅにゃあぁ〜……ひと仕事終えた後にょ風呂は格別じゃにゃあ……」


「…………ぉ、とぅ……おかぁ…………」


商人

「儂は親ではにゃいぞ」


「………ぇ……?」


「急に視界が晴れ、石造りの露天風呂の様な場所に辿り着く。暖かな湯気に凍える体を撫でられ、まだ生きているのだと実感した」


商人

「こぉんにゃ山奥に、にゃに用だ?」


「……ぁ、……だれ……」


商人

「儂は商人。……わっぱ、隠れとらんで、近ぉ寄れ」


「ゆらりゆらりと手招きされている気がしたわらべは、更に声の方へと近付く。そこには人の姿は無く、湯に浸かっている三毛猫がいた。手招いていたのはあやかしだったのかと、遂にわらべはへたり込む」


「……あ、……ゃ、かし……?」


商人

「応。随分と小汚こぎたにゃわっぱじゃにゃ。帰らぬにょか?」


「……っ……」


商人

「……帰れぬにょか……嗚呼、そうか……」


「……おいら、食っても……っ、うま、くな……い」


商人

「ふにゅう……そうみたいだにょぅ。痩せ細って、実に不味そうじゃ」


「おとぉ、おかぁ……ッ」(泣き始める。)


商人

「…………」


「……ひっ……、く、ぅ……うぇえ……」


商人

「……そうか」


「ぅううう……あぁぁ……ッヤダヤダやだぁぁあ!」(泣きじゃくる。)


「湯気に撫でられ人心地を感じたわらべは、思い出した様に泣き始めた。商人はその痩せ細って傷だらけの体を眺めながら、山に響く声を聞く。湯から上がっても泣き声はまない。どこにそんな力を残していたのだろうか」


「うあああ、うああああぁん!」


商人

「……ふぃー……さてさて、わっぱ


「うっ、ううっ……うああ……!」


商人

「……もうにゃくにゃ」


「ぅ、えっ。えっ……」


商人

「……生きたいか?」


「……ぅ……ぐすっ……ぐす…っ……」(頷く。)


商人

「相分かった。儂にょとこへ来い」


「………え…?」


商人

「儂がお主を雇ってやる。しっかり働け」


「……や、と……?」


商人

「儂は猫又商人。にゃはあるか?」


「……、にゃ?」


商人

「……あー、にゃ前じゃ。にゃは付けて貰ってるにょか?」


「……にゃ、まえ…………なまえ? うぅん、ない」


商人

「そうか。れすらも与えて貰えんかったか」


「……?」


商人

「そうだにゃあー……ふむ。……乱雪らんせつ


「……らん、せつ……?」


商人

「乱雪。お主にょにゃだ」


「らんせつ……」


商人

「生憎、儂はあやかし。お主ににゃを授けるとにゃると力を吸われる。故に、はよえて貰わねばにゃらん。良いにゃ?」


乱雪

「……おいらの、なまえ……らんせつ……」


商人

「さぁ、儂と共に来い」


乱雪

「……うん……!」



「ここは鬱蒼うっそうとした森の中。木々は生い茂り野生の生き物達が伸び伸びと過ごしている。山の奥に鎮座する大樹の根元、人の命が加わった」









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猫又商人-妖に童- 夏艸 春賀 @jps_cy729

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