のじゃロリ口調が書きたかっただけ

お題 馬鹿な手 必須要素 にゃんまげ


江戸の町に不釣り合いな白い猫が歩いている。


猫と言ってもいわゆる飼い猫として、人類に愛されてきたイエネコではない。二足歩行。多分六頭身。 昨今のゆるキャラにはない不愛想さ。その本来の猫の俊敏さもなくもそもそと土道を歩く着ぐるみを見つけた僕の彼女は叫び、走る。


「可愛いのう~」


のう? のうってなんだよ。いくら城下町を再現したテーマパークだからと言ってもそれはない。初めてのデートだろ。彼女―皐月は無邪気に僕の疑問をそっちのけでにゃんまげに抱きつく。


サツキの身長はにゃんまげの頭一つ小さいが全速力で飛びついたエネルギーをまげのついたゆるキャラは受け止めることが出来ずそのまま転ぶ。


白い毛並みに土埃がついたにゃんまげは何も言わず、立ち上がり、腰をぱんぱんと払う。


本当にマイペースなんだなともうぼんやりと眺めていると、慌ててスタッフが彼女の元に駆け寄り、注意をする。とぼとぼと歩く彼女は僕の目の前まで戻ると、ビシッと指を差した。


「こらっ、なんでわらわを助けないのじゃ」


わらわ? のじゃ? 僕はあまりの彼女の変貌ぶりに思わず頭が痛くなった。


――なんで僕の顔を見るのですか。


これは回想だ。僕と彼女がであったとき。大学構内。中庭。木陰で昼寝をしていた僕は目覚めると彼女がいた。僕の顔をずっと見ている。


――あなたのこと好きかもしれない。


たったそれだけだ。そして彼女に誘われていまこんなテーマパークにいる。よくよく考えるとそれだけで意味不明だ。


だから彼女の名前が皐月だと知ったのも今日だし、電車内でわたしはあの大学の生徒でもないとも告げられ、謎が深まる一方だったが、これから先に話される内容の方が受け入れがたかった。


「わらわは不老不死なのじゃ。もう何年生きたか数えとらん」


「はあ」


「おぬし本気で受け取ってないな」


そういうと彼女は僕の胸ポケットからペンを奪い取り、自分の右手首に思い切り突き刺す。


血が出ない。傷跡もつかない。


驚く僕を眺めた皐月は、得意げと悲しさを併せ持った笑みを浮かべペンを返す。


「わかったか?」


「おう」


そこからは普通のデートだった。彼女の喋り方以外は。楽しかったし、心地よかった。


夕暮れ。僕は聞いてみた。なぜ僕なのか。なぜ秘密を話したのか。


「似とったんじゃ。300 年前の夫と顔が」


「それだけ」


「それだけじゃ。でもおぬしとあいつは別じゃ。でもいまはお主が好きじゃ.わらわは浮気性だからのう」


あけすけに笑う皐月と思うもよらないまっすぐな言葉にどきまぎする僕。しかし彼女は痛みを持った目を作る。


「でも今日遊んで気づいたのじゃ。わらわとおぬしは生きる時間が違う。だから……」


それでも皐月は僕の手をにぎっていた。なんども愛する人を失う悲しみを彼女は知っているのに。


馬鹿な手だ。けれど僕も馬鹿だ。


だから僕はその馬鹿な手をにぎり返した。男子大学生は馬鹿なのだ。相場でそう決まっている。未来なんて考えられない。不死の彼女のためにたくさんの思い出を作ろうと決めた。

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