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部屋
今日も、俺はあいつの部屋で紅茶を淹れた。
午後のこの時間、あの時と変わらず、今日も夕日が差し込んでくる。
木の葉の擦れる音がする。
鳥の囀りが、風の音が…
カーテンをはためかせる音がする。
十分に蒸らした紅茶をカップに注ぐ。
香りが良くて気に入っていたこの茶葉も、もう、残り僅かになった。
目を閉じると、紅茶の香りに包まれ、心地よい陽の温かさに普段の寝不足も重なったのか、
いつの間にか眠ってしまっていた。
気が付いたのは少し経ってからだったと思う。
テーブルに落ちる影がほんの少し伸びていた。
暖かい日差しの中に、美しいものが見えた気がして思わず寝起きの目を細め手を伸ばした。
それには、触れなかった。それは、いつか見た母のようだったようにも思える。
いや、あの陽の中に見えたのは、長身の、いけ好かない男だったか。
「すっかり、冷めちまったじゃねぇか…」
呟いたその声は、壁にぶつかってぽとりと落ちた。やり場のない手を顔へやる。
「俺の判断は、正しかったか?」
あの時、認めざるを得なかった。あいつを失うのが怖いと。
暖かい手、大きな背中、美しい、大空を思わす瞳。
遠い日のあの時、初めて見たあいつは天使のようだった。
美しくて、引き込まれたその男は、ずるかった。
最後の最後まで、ずるいままだった。
「次会ったら、一発殴らせろ」
手加減はしてくれよ
どこかでそう、笑う声が聞こえた気がした。
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