Ep021 ネット恋愛編 私だけが好きだったみたい

数日後、熱は下がり元気になる。心は重く沈んだまま。彼から連絡はない。スマホを何度も確認する。頭の中は彼ばかり、身体は苦しさでいっぱい。苦しくて苦しくて。


あの時、我慢をすればよかった。そうしたら今も彼の声が聴けていた。しかし今の後悔を知っても、あの時の私は我慢出来ただろうか。


私を特別扱いしないのは我慢ならない。例え我慢出来たとて何処かで爆発したり彼を傷つけているはず。今でも怒りが収まらない。彼は酷い人。あんな人を好きでもこれからも辛いはず。これで良かったのだと自分を納得させようとしていた。後悔と納得の渦に飲まれてを繰り返す。


時間がきっと解決してくれる。今までの失恋だって時間だけが優しかった。いつか、この痛みも石棺化出来る。あんなに愛した初めての人との別れも乗り越えたじゃない。数年掛かったけれど。他の人との別れもそうだった。いつも私は好きなのに自分から離れてしまう。また今回もそうだった。本当に学習しないな私。


50歳を過ぎて、その人で頭がいっぱいになる焦がれる恋を出来たこと自体が奇跡みたいだ。もう私は恋をしなくてもいい。苦しみなく穏やかに過ごしたい。早く時間が過ぎて、この苦しみから解放されたい。彼が恋しくて苦しい。彼の声が聴きたくて苦しい。息が詰まる。眠れない日が続く。


彼から早朝5時54分にLINEが来る。「ノラ。SNSに小説を投稿した。まあ興味ないだろうけど言っとく」眠れない私は直ぐに「おはよう」と返信する。「ノラ話せる?」「いいよ」


久しぶりの彼の声。耳の細胞を研ぎ澄ますように攲てる。「久しぶり」と話が始まる。熱が下がったとこと、彼の投稿した小説などについて話す。彼の声は突き放したように遠く感じ、声色は硬く冷たかった。


「朝、早起きなんだね」「夜起きてて彼女にモーニングコールしてるから」「寝ないでモーニングコールしてあげてるの?」「うん。寝起きの彼女めっちゃ可愛んだ。」と寝起きの彼女の物真似を始めた。


私は彼の声が聴きたくて苦しんでいたのに彼は彼女と仲良くして平気だったみたい。私には酷いことをするのに彼女にはすごく優しいんだね。


「私と話せなくて何ともなかった?」と聞くと「時間が長く感じたかな・・・」時間が長く感じただけだったのね。私は彼の声が聴きたくて一秒一秒が自分を傷付ける痛みに感じていた。


毎日、何時間も話していたけれど私だけが好きだったみたい。あの時、大好きと言ってくれた言葉は本当だったと思う。でも私ほどには彼は私を求めていない。


「私はすごく辛かったよ。あなたは平気だったんだね。」と電話を切った。「あなたから、私の声が聴きたくて、たまらなかったと言って欲しかっただけなのに。長く感じただけでは足りない。」とLINEを送った。彼からの返信はなかった。


夜にも電話したが喧嘩して8分で電話は終わった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る