第7話

「第二の平小次郎将門となり乱を起こすことよ」

「清衡殿、縁起でもないことを」

「縁起も糞もあるか。正確に申さば、奴ほどの威勢はないが西国でも国衙に弓引く者がおると聞く。純友はそやつと盟友で助太刀を頼まれ京を去ったとも耳にしておる」

「第二の将門がおり、その者が純友を西国に呼び寄せたとは何とも想像の埒外な」

 それほどに力を持つ者が純友以外にも賊徒として暴れているとは恐ろしいの一言だ。だが一方で、友垣のために立ち上がったことが賊徒となった事由の一つという純友の人間味に感じ入るものもあった。好古は純友のことを欲に駆られ海の賊徒の頭となった、そんな程度にしか思っていなかった。まさか友との紐帯のために動いたとは、ただただ驚くしかない。

「第二の将門なる者も、国司受領に妻子を殺されるなどの暴虐が事由で立ち上がったとか」

「まさか、さような仔細があったとは」

 一転、憂いに表情を翳らせる清衡に対し、好古は目を見開いた。

「源氏、平氏を代表とする兵(つわもの)なるものがなぜ、日の本で増えておると思う? 弓矢の沙汰をもってしか解決できぬほど横暴が各地で罷り通り、それに抗い、あるいは踏み台にして武夫(もののふ)がのし上がっておるのだ」

 都をほとんど出たことのない好古には、想像すらできない世情がそこにあることを思い知らされる。

「国司受領に任じられてみろ、目代を派遣せぬならそのような土地にみずから赴きことを上手く運ばねばならぬのだぞ」

「肝に銘じるでおじゃる」

 好古が神妙な顔で頷くのに清衡は笑みを浮かべた。太陽が顔を出したような笑顔だ。

「さて、純友追捕の儀だがな」

 はい、と応える好古に、

「駄目だ。結句のところ、朝議の結びは三公次第で決まってしまうからな」

 清衡はお手上げとばかりに肩をそびやかした。

 三公とは左右大臣と太政大臣を総称した呼び方だ。ちなみに、現在の左大臣の藤原忠平は摂政を兼任している。

「ところでな、好古。純友追捕の儀では我が血縁の公望(きみもち)が手柄を欲して息巻いておる。元は公卿に仕えて滝口武者をしておった男だ、もしお前が西に遣わされることとなったらよろしく頼む」

「はあ、左様でおじゃるか」

 好古はみずからの目論見が外れたことに落胆し清衡の最後の言葉はほとんど耳に入っていなかった。

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