第3話 ポルターガイスト

 尾形君のお父さんの会社に行きました。


なかなか大きな会社で駐車場も広いビルは横長の3階建てでした。


私はジャケットにネクタイ姿で行こうかと思いましたが、

まだ首が痛く薄くなってきましたが顔もパンダのままでしたので

サングラスにパーカー、ジーンズで、お邪魔しました。


 受付で自己紹介して社長のいる社長室兼、応接間に案内されました。


「おはようございます」


仕事の内容ですが、まず指定されたアパート周辺区域全体を視野にいれて

歴史的観点も含めて地図や記録、わかること全て調べて欲しいということでした。


 例の神主様?は特殊な能力の長けていらっしゃる方で調べがなくとも色々と見えたり、目に見えぬものたちの状況や訴えが、わかるらしいのですが

下調べがあるのと無いのでは土地を浄化する計画にかかる時間が大幅に違うのだそうです。


しかも正確に言うと、その方は祈祷師でも宮司さんや神主様でも無いそうです。


 元はまつりごとを行うという言葉も関係しているらしいのですが

祭師さいし】というのだそうです。


 その祭師様を、お呼びしたのは銀行本部の、お偉いさんだそうで

確実な方をと探したところ、どんどん話が上の方に行き、

霞ヶ関のる御方の紹介で件のアパート及び周辺の浄化を行うことになったらしいのです。


「はぁ、なんだか大袈裟になってきましたね社長」


「そうなんだ式さん、それで、たった今そこの荷物届いたんですけど、それは式さんの仕事に必要な物が入っているそうです」


大きなダンボールが二つ置いてあります。

「はぁ・・・で祭師さまは、いつコチラに、いらっしゃるのでしょうか」


「はい3週間後の予定です」


話していると尾形君が入ってきました。


「あ、おはようございます先生」


「おはようございます、誠一君その先生は、やめてくれないかな」

すると、お父さんが言いました。


「あー、それはですね式さん、ひと芝居、って欲しいのです。

特に第三者がいる場合、式さんは先生だということで、

そうすることで調査も進みやすいはずです、うちの息子は調査と浄化作業の間、式さんの助手という事になっておりますので

息子の方の教育も是非、お願いいたします」


「はぁ・・・」なんだかなぁ・・・


「解体作業などに入りますと、うちの社員も動きますし、その間だけでも息子に式さんの事は、とにかくと、お呼びするように私が指示したんです、

それで息子の教育費ということでコチラ別途の報酬です、どうか、収めてください」


「いやぁ、もう報酬は十分ですよ、しかしナンデモ・カンデモ金を払いたがりますなぁ、あなた方は」


「はい・・・申し訳ないです誠意の見せ方が足りないでしょうか」


「いやいや、そんな事ではなくてですね・・・・」


「正直に言います、実は警察でも堀之内先生にも言われていたのですが

式さんは金では動かない人だと伺っておりまして

実際お会いして、正直最初はこういう人で大丈夫かなと思いましたが、

い、いや怒らないでください。


案の定、断られそうになった時、私、何年ぶりかで感動しました。

噂通りの方だなと思いまして息子は笑って失礼していましたが

本当に、こんな方がいらっしゃるのかと我々親子は嬉しくて

笑ってしまったのです。

心より、お詫び申し上げます、申し訳ありませんでした」


「はぁ、さすが社長さんベラベラと良くしゃべりますね」


「いやぁーこれは手厳しい、ははっ、私、先生が心底好きになってまいりました」


尾形君は黙って笑みを浮かべて聞いています。


その時、不意に壁際の棚に飾ってあった華が花瓶ごと落下しました。


―ガチャン


「ん?」

割れた花瓶の水が床に広がっていきます・・・・そして固定電話が鳴りました。

―ルルルルル

社長が電話に出て尾形君は落ちた華と花瓶を片付けようと思ったのか、

矢先に水で足を滑らせ倒れこみ、そこに有った椅子に顔面を打ち付け床に伏せました。


「あっ!」

―ゴツンッ


「尾形君!」


私は助けようと立ち上がりました同時に今度は社長が


「うーーっ」とうめき声をあげて、その場に倒れ


「先生!しき先生!電話・・・電話です・・・うーっ」


社長は腰のあたりを抑えながら受話器を渡してきました。


「祭師の榊原です、すぐに荷物の蓋を開けてください悪さが静まります」


「え?」


「式さん荷物のダンボールをあけて中から御札を取り出してください、

その後、救急車を呼んでください倒れた二人には、お守りを握らせてください、

いいですか、できますね・・・シキさん!」


「は、はい、やってみます」


尾形君は出血しているようで床の水に血が混じっています。


私は急いでダンボールを開けて木製の御札や、お守りをテーブルの上に出しました。

119に電話をかけようと固定電話を掴むと、まだ祭師・榊原さんが待っていました。


「あ、もしもし・・・」


「窓を、窓を開けてください、すぐにっ!」


「あハイっ!」


「アビラ・・・」祭師様はなにか真言?をとなえているようでした。


窓を開け放ち受話器を持つと電話は切れていました。


 祭師・榊原と名乗ったのは女性で聞き覚えがある声でした。


すぐに119に連絡して救急車を呼びました。

まだ、おかしなことは収まる気配がありません。

とうとう、ここまでも始まってきて不安な気持ちが、むくむくと胸に広がって来ました。

気分が悪くなりながらも、社内に居る従業員たちを呼びに行きました。


「おーい誰か!誰か来てくれー、尾形くんっ!社長っ!大丈夫ですか」


 だから嫌だったのに・・・乗り気じゃなかったのに・・・


でも、ここで逃げ出したら、みんな危なくなる・・・


もう自分は引き返せないところまで来てしまっているのに・・・


淋しい男だ・・・俺は・・・


俺が守りたいもの守りたい人・・・


はたして心から守りたいと思うもの・・・人・・・


それが思い当たらない自分が・・・嫌でした・・・

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