第5話 天使エルウェル
にゃー!
にゃー!
にゃー!
ぽちは外に出ようとして玄関のドアを押してるにゃ。
でも、駄目にゃ。
何度押してもドアはびくともしないのにゃ。
早くご主人様を助けに行かないと駄目なのに……。
にゃー!
にゃー!
にゃー!
開けにゃ! 開けにゃ! 開けにゃ!
一生懸命に力を込めて押し続けるにゃ。
でも、どうしてもドアは開かないのにゃ。
それなら窓なのにゃ。
ぽちは、窓の側に行って窓を叩いたのにゃ。
にゃー!
にゃー!
にゃー!
…………駄目なのにゃ。
窓もぜんぜん開かないのにゃ。
焦るのにゃ。
ご主人様を早く助けに行きたいのに。
ご主人様が怪我して泣いてるかもしれないのにゃ。
やっぱりドアから出るのにゃ。
ぽちは、勢いをつけて頭からドアに体当たりしたのにゃ。
にゃー! ドスン。
ドアがちょっとだけ揺れたのにゃ。
だけど、まだぜんぜん開かないにゃ。
もう一度やるにゃ。
にゃー! ドスン。
もう一度にゃ。
にゃー! ドスン。
もう一度にゃ。
にゃー! ドスン。
…………開かないのにゃ。
何度もドアにぶつけてるから、頭から血が出て来たにゃ。
痛いのにゃ。あと頭がくらくらするのにゃ。
大人の野良猫にいじめられて、死にかけた時と同じにゃ。
でも、弱音をはいている場合じゃないのにゃ。
早くご主人様を助けに行かなくちゃなのにゃ!
今度はもっと助走をつけて思いっきり体当たりするにゃ。
部屋の端っこまで下がって、ここからドア目掛けて走るのにゃ。
頭がくらくらして、足がふらふらして、上手く歩けないにゃ。
でも、頑張るのにゃ。
いくのにゃ!
ぽちは、全速力でドア目掛けて走ったのにゃ。
《おやめなさい》
にゃ!?
走ってる途中で、ぽちの頭の中に誰かの声が響いたにゃ。
誰なのにゃ?
ぽちは、びっくりして足を止めたのにゃ。
部屋の中をキョロキョロしたけど、誰もいないのにゃ。
にゃー?
《こちらへ、おいでなさい》
また頭の中で声がしたにゃ。
ぽちを呼んでるにゃ。
駄目にゃ。ぽちはご主人様を助けにいくから、行けないのにゃ。
ぽちは、もう一度ドアに向かって走り出したにゃ。
だけど、次の瞬間…………、
ぽちの体は不思議な光に飲み込まれたのにゃ。
……………………。
……………………。
……………………にゃー?
ここはどこなのにゃ?
さっきまでご主人様のお家の中にいたのに、変な場所にいるのにゃ。
何もない場所なのにゃ。
右を見ても左を見ても、何もないのにゃ。
上を見てもお空がないのにゃ。
全部真っ白の広くて変な場所なのにゃ。
にゃー?
あ! 壁も天井も無いからきっとここはお外なのにゃ。
それなら、ご主人様を助けにいくのにゃ!
急ぐのにゃ!
《おまちなさい》
ぽちが走り出したら、また頭の中にさっきの声が聞こえたのにゃ。
そして、光がぽちの体を包んだのにゃ。
今度は光の中には飲み込まれなかったのにゃ。
だけど、光が輪っかみたいな形になってぽちを捕まえてるのにゃ。ぜんぜん動けないのにゃ。
うーん……ジタバタするのにゃ!! でも動けないのにゃ。
ぽちを捕まえてる光は、ジタバタするぽちの体を捕まえたまま、ゆっくりと動いて、ぽちに後ろを振り返らせたのにゃ。
《元気な子猫ですね》
ぽちの後ろには、知らない人間の人がいたのにゃ。
背中に羽が生えてて、頭の上に光る輪っかが浮かんでる不思議な人なのにゃ。
眼鏡をかけた背の高い人間の人にゃ。
超絶美形なイケメンさんなのにゃ。
『私は人間では有りませんよ』
にゃ?
イケメンさんは、ぽちに向かってそう言ったのにゃ。
頭の中に聞こえた声と同じだけど、目の前のイケメンさんが自分の口で喋ったにゃ。
さっきぽちを呼んだのは、この人なのかにゃ?
変な人なのにゃ。
人間なのに、人間じゃないって言ってるにゃ。
ぽちは喋ってないのに、ぽちが頭の中で考えてることに返事してくるのにゃ。
『私は人間ではなくて、天使です』
天使!? 知ってるにゃ!
神様のお手伝いをする人なのにゃ!
とっても偉いのにゃ!
『おや、天使の存在を知っていましたか。随分と賢い子猫ですね』
天使様に誉められたのにゃ!
ははーー、ありがたきしあわせ、なのにゃ。
『……どこでそんな言い回しを覚えたのですか?』
ご主人様とみたテレビでお勉強したのにゃ。
ぽちは、テレビっ子なのにゃ。
『……変な子猫ですね』
天使様も変なのにゃ。
人間みたいに眼鏡かけてるのにゃ。
眼鏡をかけているのは人間なのにゃ。
『良い所に気づきましたね、子猫よ。これは、我が権能の一つである【知恵】を一目で分かりやすくするために具現化させた聖具なのです』
にゃー?
よくわからないのにゃ。
『私の名は、知恵と旅立ちを司る天使エルウェル。その権能の一つである【知恵】の部分を人間界の者に分かり易い形にしたということです』
にゃー。
天使様の名前がエルウェルということだけ、わかったのにゃ。
『……まぁ、子猫には少し難しい話ですね。私の名前を覚えたのならそれでいいでしょう』
にゃー。
天使様は人差し指で眼鏡をクイッと持ち上げながらそういったにゃ。
ぽちは、よくわからないからにゃーと鳴いたにゃ。
『少し話が逸れましたね。あなたを呼んだ本題のお話をしましょうか』
にゃー。
天使様は、ぽちに用事があるのかにゃ?
『そうです。まずは確認しますが、あなたはカミヤミナトの飼い猫ぽちで間違いありませんか?』
にゃ!?
カミヤミナトはご主人様の名前なのにゃ。
そうだったにゃ!
ぽちは、ご主人様を助けに行くのにゃ!
急ぐのにゃ!
ぽちは、走り出そうとしたけど、光の中に捕まったままなのにゃ。
動けないのにゃ。ジタバタするのにゃ!
にゃー!!
『おまちなさい、とさっきも言いましたよ』
天使様が呆れた顔で、ぽちを見てるのにゃ。
でも、ぽちはご主人様を助けに行きたいのにゃ。
『私はそのご主人様からの伝言を持ってきたのですよ』
にゃ!?
天使様はご主人様を知っているのにゃ??
『ええ。さっきまで一緒にいましたからね』
そうなのにゃ??
ご主人様は無事なのですかにゃ??
どうして帰って来ないのにゃ??
『無事かどうかは判断が難しいですね』
にゃ??
怪我してるのかにゃ?
ぽちが今すぐ行ってペロペロしてあげるのにゃ!
ご主人様はどこにいるのにゃ?
早く会いたいにゃ。
『貴方のご主人様、カミヤミナトはもうこの世界にはいません』
にゃ?
ご主人様がいない? どういう意味なのにゃ。
『…………まずは落ち着いて聞きなさい』
天使様は少し言いづらそうにそう言ったのにゃ。
ぽちは、こくんと頷いたにゃ。
早くご主人様がどこにいるのか知りたいのにゃ。
天使様は、ぽちの顔をじっと眺めてから、ゆっくりと口を開いたにゃ。
『貴方のご主人様、カミヤミナトは死んでしまったのです』
……………………。
……………………。
……………………。
…………天使様が変なことを言ったのにゃ。
…………ご主人様が、死んだ?
天使様は、ぽちにそう言ったのにゃ。
…………ぜんぜん意味がわからないのにゃ。
ぽちは、にゃー、と泣いたのにゃ。
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