夜の月と、天の海と
島崎八歌
プロローグ
「サラサ王妃〝イゾラの旅芸人〟が……」
言って、侍女は慌てて口元を手で押さえ、周りを見渡した。
まるでこの会話を、他の誰かに聞かれることを恐れるように。けれど、部屋には王妃と侍女以外、誰もいない。
それでも侍女は用心のためにと思ったのか、さらに声をひそめた。
「彼らが、トリアの都に入られたようです」
侍女は手にしていた封書を王妃に手渡した。
「先ほど、一座の使いという者より、お預かりいたしました」
宛名も差出人も書かれていないその封書を、サラサ王妃は震える手で開封した。
『我が一座一番の舞姫の舞を
ご披露いたしましょう』
書かれていた内容はたった二行の短い文。けれど、王妃にはそれだけでじゅうぶん通じたらしい。
読み終えたそれをろうそくの炎にかざし、燃え尽きるのを確認すると、サラサ王妃は侍女に命じる。
「すぐに彼らを呼んで」
「かしこまりました」
「それと、このことはくれぐれも……」
この後に続くであろうサラサ王妃の言葉を、侍女は心得ておりますというように頷く。
王妃はああ……と声をもらし、窓の外、夜の
「ようやく、わたくしの願いが化膿のですね。〝イゾラの娘の舞〟を目にすることが」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます