(二)-13

 飛び出した自分の白い体液をトイレットペーパーで拭きつつ、拓弥はようやく冷静さを取り戻した。

 ここで単位を落とすと、まずい。特に放射線概論は拓弥の学科では必修科目だ。コレを落とすだけで留年が確定する。拓弥は事後処理を済ますと、すぐに自分の席に戻り、勉強を再開した。

 しかし、数時間は持ち堪えたその冷静さは、結局しばらくするといつの間にか霧消してしまった。というのも、教科書の共著者の一人が寝屋川翔太という名前で、息抜きで教科書を閉じたり開いたりするときに、その名前がチラチラ拓弥の目に飛び込んできたのだ。

 最初のうちは全く気にならなかったが、それを見るたびに拓弥の頭の中に翔太の姿が、少しずつだが徐々に、やがてはっきりと想起されていった。

 そのおかげで十六時近くになると、拓弥の勉めて強いていた活動はついに頓挫することになった。

 悶々とした気持ちを抱え、すっかり手につかなくなった勉強を止め、拓弥は立ち上がった。勉強道具をバッグに入れると、デスクのライトを消して図書館を出た。


(続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る