第25話.パターン3:マリベル救出から開始
満月の青白い光が濃い影を落とす。
その影に溶け込むように一人の男が音もなく降り立った。
貴族の豪邸が多く立ち並ぶ地域。その中でも比較的大きな館。その裏口に男は取り付く。
青みがかったグレーの髪に、
男性にしては少し小柄な160センチほどの身長。整った顔に、鋭い目。
黒の上下に身を包んでいるこの男は、名をルイス・ナバーロと言った。
ルイスは、細く小さな鉄棒をいくつか取りだして、そのうちの2本を裏口の鍵穴に差し込む。
しばらく角度を変えながら動かすとカチリと小気味いい音がした。
そっと裏口を開けると、音も立てずに館の中へと滑り込む。そこには明かりは無かったが、夜目の効くルイスにとっては問題無かった。
そして迷わず地下へと向かう。
階段を降りたところで、壁に隠れて小さな手鏡を使い廊下の先を
少し先にある部屋の前に見張りが二人。そこまでは
階段からは20メートルといったところか。
その部屋以外に見張りは立っていない。
そのことからも、ターゲットはその部屋だとルイスはあたりをつけた。
しばらく様子を見ていたが、見張りの目がこちらに向いていない隙をついて廊下に躍り出た。
音を立てずに廊下を疾走する。
だが、半分ほどのところで見張りに気付かれた。二人の見張りがこちらに向く。
「何者だ?」
「止まれ!」
口々に
慌てて剣を抜く二人の見張り。
だが、間に合わない。
既に剣は抜かれている。
ルイス目掛けて
その直後、床に手をついて、伸びあがるように
顎を砕かれた見張りはその場で昏倒する。
その反動を利用して立ち上がったルイスは、腹を押さえて悶絶する見張りに近づく。そして、小瓶を取りだし霧吹きの様にプシュッと見張りの鼻先に噴きかけた。
数秒で見張りは眠りに落ちる。
これはファンガスの眠り粉という魔法道具で、ひと吹きでたちどころに相手を眠らせてしまう効果がある。
念のため顎を砕いたほうにもひと吹きすると、ルイスは見張りの体を調べる。すぐにポケットから鍵束を見つけた。
鍵束で、部屋の入り口を開ける。
廊下からの光が部屋の中へと差し込んで、そこを薄暗く照らしだす。部屋の中は狭く、ひどく殺風景だった。
「だれ?」
ベッドの前には、一人の少女が両腕で自分の身体を抱きしめるようにして立っていた。
白地に水色の縁取りのあるゆったりとした上着に、同じく水色のロングスカートを履いていて、腰のあたりからは、ボリュームのある
その特徴は、その少女が
怯えているのだろう。少女は震えるような小さな声で
「俺はルイス・ナバーロ。泥棒さ。悪い貴族から、あんたを盗みに来た」
「泥棒……さん?」
少女を怯えさせないように
その瞳には警戒の色が濃く表れていた。
泥棒と言われれば、当然警戒するだろう。
「ああ、本当は別の物を盗む予定だったんだけどな。あんたが貴族に痛めつけられているのを見ちまって。……見ちまったからには放っておくわけにもいかねぇからな」
「あっ、さっきの!?」
少女はそう言って顔を伏せてしまった。
「そういうわけで、俺達に盗まれてやってはくれねぇか?」
「盗む……? 私を?」
少女は言葉の意味を理解しようとして、小さく口の中で呟く。
「なに、悪いようにはしないさ。あんたをここから逃がしたい。俺と一緒に来てくれねぇか?」
「……はい!」
今度は少女にも理解できたのだろう。ルイスの言葉に顔をあげた少女は瞳を潤わせながら頷いた。
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🔹ここまでで1話目の予定。約1750文字
文字数増やすとヒロインまで登場させられます。
↓ 2話目に続きます。
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「よし、そうと決まれば、まずはそいつを外さねぇとな」
そう言うルイスの視線の先には、少女にはめられた首輪とそれを繋ぐ鎖があった。
「あっ、これ……」
少女は、自分の首に巻かれたその首輪に手を触れると悲しそうに目を伏せる。そんな少女に近づきながら、ルイスは先ほど見張りから奪った鍵束を取りだして、ニヤリと口の端をあげた。
「大丈夫だ。これがある」
鍵束から首輪に合いそうな鍵を探すが、けっきょく首輪に合う鍵は見つからなかった。
「ちっ、こいつにあう鍵がねぇな」
「えっ……じゃあ?」
途端にがっかりした顔になる少女を前に、ルイスは2本の細い鉄棒を取りだした。裏口の鍵を開けたピッキング用のものだ。
「泥棒を舐めてもらっちゃぁ困るぜ。
そう言いながら2本の鉄棒を少女の首輪についている錠前に差し込んだ。探るように少し動かしただけで、カチャリという音と共に錠前がはずれる。
「わっ!」
「なっ。言った通りだろ」
少女が驚きの声をあげると、ルイスは得意げに笑った。
「すごい! 泥棒さん、すごいよ!」
「ふっ、まかせておけ。それと、俺はルイスだ。そう呼んでくれると嬉しい」
「はい。ルイスさん。私、マリベルと言います」
マリベルはそう言うと右手を差し出してきた。それをルイスは握り返す。
「ルイスでいいよ。さん
「はい、ルイス。
マリベルは手を握ったまま、ルイスに頭をさげる。そんなマリベルを見て、ルイスは吹き出してしまった。
「ぷっ。なんだその言い方? まあ、いいか。こちらこそよろしくな」
ルイスが吹き出したのにつられて、マリベルも相好を崩す。その表情はとても可愛らしく、ルイスは一瞬、その顔に目を奪われていた。
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🔹ここまでで2話目の予定。2話目は約700文字
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「よし、じゃあ逃げるぞ」
ルイスは少しだけ慌てたように言うと、マリベルの手を取った。
廊下には先ほどの見張りが倒れたままだが、起きる気配はまるで無い。見張り二人を無視して一階へ向かう。
階段を駆け上がり、影になっているところから出口へと続く廊下を窺った。幸いなことに誰もいない。
ルイスはマリベルのほうへと振り返って頷くと、マリベルの手を引いて出口に向かって廊下を走る。
半分ほど走ったところで、出口付近にある柱の影から一人の男がゆっくりと姿を現した。
ルイスは慌てて足を止めた。
その男は、白地に赤をあしらった騎士服に身を包む偉丈夫で、ルイスより頭一つ分以上高い身長に、鍛え抜かれた筋肉の鎧を纏ったがっちりとした体つきをしている。
ルイスが事前に調べた情報によれば、彼の名はバルドゥル。イザベラ専属の騎士団である、
槍を持たせたら
今は片手剣で武装している。
さすがに室内での槍は取り回しが難しいのかもしれない。
「なんだか嫌な予感がして来てみたら、鼠が入り込んでやがったか。その娘はイザベラ様にとって、大事な道具だ。連れて行かれるわけにはいかねぇな。置いて行くなら見逃してやらんこともないぞ」
バルドゥルは腰の剣を抜くと、それをルイスへと突きつける。
「ふんっ! そう言われて、素直に置いて行くと思うか? それに道具扱いとはひでぇじゃねぇか。ここは力づくで通らせてもらうとするか」
ルイスはバルドゥルを睨みながら右手で短剣を抜いた。その刃には毒でも塗ってあるのか、ねっとりとした液体が表面を覆っている。
「ほぅ。この俺とやろうってのか。おもしれぇ」
バルドゥルもまたルイスを睨み返す。
周囲の空気がピリピリと緊張感を増していった。
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🔹ここまでで3話目の予定。3話目も約700文字
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