第27話 物語(11/27の分)
なかなか寝付けなかったせいか、二人が起きた頃にはもう日は高く昇っていた。ヒロコからアイマスクまでを外された時には、寝坊したかと焦ったが約束の時間は夕方だったのを思い出す。
最後になるかも知れないから、とヒロコは大きめのスプーンでバニラアイスを掬い、ブランデーを数滴垂らしたものを香坂の口元へ近づける。
「ヒロコくん、流石にこれはっ」
「おじさん、緊張してるでしょ? ちょっとくらいお酒入れといた方が、気も落ち着くよ?」
アイス、溶けちゃうから。ヒロコも譲る気配はなく、そこまで言われると香坂も口を開けざるを得なかった。
あーん、と口に運ばれたアイスは、ブランデーの香りが甘さを上品に引き立て、一口でも酔いが回りそうになった。
いつものように食後の歯磨きをされ、片耳に通話機能付きのワイヤレスイヤホンをセットしてからフルフェイスヘルメットを被せられる。ついに、出発するのだ。
揺れに耐えるためにいつも使っているネックピローを首にあてがって貰うと、自転車の振動は大分軽減された。
昼の日に少し翳りを感じる頃、公園に着いた。まだまだ指定された時間には早いので、新しく鍵をつけた自転車を駐輪場に停めてベンチへとヒロコは腰を下ろす。香坂も、ベンチの上にタオルを敷きネックピローごとヘルメットを置く。はたから見たら奇妙に見えるだろうが、幸い人はいなく暖かな空気がまだ残っている。
「人生をさ、物語に例えたりするじゃん?」
急に話しかけてくるヒロコに驚く香坂だったが、誰もいないならいいかと続きを待つ。
「そうだとしたら、おじさんが喋る生首になった理由ってなんだったと思う?」
予想以上に難しい質問に香坂が答えられずにいると、ヒロコが代わりに話す。
「私はさ、案外意味なんてないと思うんだよね」
「意味がないって……そんなこと、あるの?」
信じられない気持ちの香坂に、ヒロコは大きく頷く。
「意外とそんなもんじゃないんかな。神様の気まぐれって」
ヒロコとの他愛のない会話ももうできなくなるかも知れない。そう思うと、もう少しこの時間が続けばいいと香坂は思ってしまった。
陽はゆっくりと傾き、次第に夜が近づいてきていた。
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