勝浦さん

えるす

夢の中 ❶

 勝浦さんは、全盲の女の子だった。生まれた時からそうなのか、後からそうなったのかはわからないけど、たぶん後から。

 名前の通りの勝ち気な子で、全盲であることをものともしなくて、クラスの中心人物で、人気者だった。


 僕はそんな勝浦さんのことが好きな一人のただのクラスメイトだった。あるいはそれは恋愛感情というより、自分にないものを持っている彼女への憧れと言った方が正確だったかもしれない。

 僕は勝浦さんとは真逆の人間だった。大人しくて、おどおどしていて、言いたいことは何も言えないし、そもそも言いたいこともない、つまらない人間だった。

 外国の血が入っていて、生まれ持っての金髪で、顔立ちもそんなに悪くなかった。でも、それだけ。中身の伴わない人間というのは、結局のところモテない。

 それに、そんな外見的な優位性が全盲の勝浦さんに有利に働くことは、残念ながら全くなかった。

 だから僕は、住む世界の違う勝浦さんのことをいつも遠くから眺めているだけだった。


          ●●●


 僕にはいつも一緒にいる同級生の男の子がいた。黒髪で眼鏡をかけた、根暗そうな、いかにもオタクという感じの子。

 彼とはいつも一緒にいたけど、友達というわけでもなかった。クラスから浮いた者同士が、一人だと肩身が狭いから一緒にいるだけというのが最も近かった。

 彼との最初の接点はクラスじゃなくて、リサイクル工場でのアルバイトだった。休憩時間に話したのがきっかけで、そのうちクラスでも一緒にいるようになった。

 でもやっぱり特別気が合うわけでも、話が合うわけでもなくて、一緒にいた時間の割に僕は彼のことを何も知らなかったし、知りたいとも思わなかった。

 だからわざわざ休日に会って遊んだりしたこともなかった──いや、正確に言うなら一度だけあった。

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