第4話 中央即応連隊
西暦2030年4月20日 アルノシア公国首都アルズ近郊
アルノシアの国防を担う組織である公国軍は、陸海空の三軍からなり、将兵の総数は48万人に達する。人口2400万の中規模国家である公国の実に50人に一人が軍人であるという計算になるのだが、この状況を理解するには地理的な要因を理解しなければならない。
総面積40万平方キロメートルの国土は北・西・南の三方を他国と地続きで接し、東のエルドーズ半島はアドラ海を挟む形でモルディア諸島やベーダ大皇国と接している。この特徴的な地形に対応した国防方針を達成するためには、陸軍戦力に大きな比重をかける必要があった。
「にしても、今年も新規入隊する奴が多いよな。今はある程度平和だというのに、熱心だよなー」
アルズ近郊の公国陸軍駐屯地にて、クエンサーはそう呟きながら、隊列を組んで行進する訓練を受ける新兵達を見やる。この駐屯地には首都防衛を担う部隊である中央方面軍と第1師団、そして第1歩兵連隊の司令部が置かれている。だがそれ以外にも、公国精鋭と名高い中央即応連隊もこの駐屯地に配置されている。
万が一有事が発生した場合、これに対して早急に駆けつけ、増援が動き出すまでの時間を現地部隊とともに稼ぐ戦力として編制された中央即応連隊は、参考とした陸上自衛隊の同名の部隊よりも規模が大きい。16式機動戦闘車で構成された竜騎兵大隊と、パトリアAMV装輪装甲車で完全機械化された3個騎兵大隊、そして自走迫撃砲で構成された砲兵大隊で成り立っているこの部隊は、総数3千人程度と陸上自衛隊の1個旅団にも匹敵する。
クエンサーは第1騎兵大隊に属する歩兵であり、しかも下士官であった。経済的な理由で士官学校に入学し、4年の研鑽を積んで伍長として入隊した彼は、軍の任務たる魔獣駆除任務でそこそこの戦果を挙げ、軍曹に昇格していた。
「バルボターズ軍曹、小隊長がお呼びです」
不意に声をかけられ、クエンサーは顔を向ける。そこに立つのは一人の女性士官。赤毛のボブカットが印象的な彼女はあどけなさが残っており、クエンサーは小さくため息をつきながら声をかける。
「…伍長、ここには慣れたか」
「はい。小隊長や同じ小隊の皆様がよくしてくれているので助かっております。父君に母君も同様に、軍の下で研鑽を積み重ねてきなさいと言われておりますので…」
「…そうか」
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