第1話 アルノシア建国
西暦2001年7月1日、地球は史上初めて、そして最も稀な事態を迎えた。
東京湾中心部に現出した、巨大な時空の歪み。そこから現れたのは、1000隻もの大船団。それに乗って湾岸へ上陸を果たした大軍は、その強大な軍事力を以て瞬く間にお台場を占領せしめたのである。
民間人ばかりの集う場所での戦闘は、ただの虐殺だった。もしも現地の警察が決死の覚悟で敵と対峙していなければ、死傷者は倍の数に膨れ上がっていただろう。そうして残酷なまでの蹂躙が2日間も続き、政府は漸く戦後初の防衛出動を発令するに至ったのである。
当時、『国籍不明の武装勢力』と呼称されていたラーティニア帝国は、地球世界の常識を知らなかったと言えども野蛮に過ぎた。推定でも5万以上の現地人を虐殺し、1万近くを奴隷として『向こう側』に連れ去ったその大罪は、膨大な犠牲によって報いる事となった。
号して20万はいると主張していた大軍は、その半分以上が陸上自衛隊第1師団及び海上自衛隊第1護衛隊群、そして米海軍第7艦隊の攻撃によって戦死し、1万以上が虜囚の身に墜ちた。無論、当事国の日本や、被害者の多かったアメリカを含む国々の怒りは止まるところを知らず、国連総会の場にて直ちに国連軍の派遣が決定。安全保障理事会の常任理事国5か国に自衛隊と韓国軍、そしてドイツ軍やイタリア軍も含めた9か国による大規模侵攻が開始されたのである。
事実上の戦争勃発時期に当たる2002年1月から始まったこの戦争は、ラーティニア帝国では『嘆きの3か月』とまで呼ばれる程の規模の大戦争と相成った。帝国軍の当時の総戦力は30万であり、うち10万をすでに京浜地域で喪失。本土防衛戦力も貴族の私兵ともども磨り潰され、当時の帝国上層部は周辺国に救援を求めるしかなかった。
そうして4月に戦争は終結。ラーティニア帝国は滅亡の危機を覚悟したが、日本政府は寛大だった。日本としては賠償金と謝罪に当たる対応だけが必要なのであり、アメリカも当時は中東にて起きた悲劇的な大事件への対処に忙しい状況だった。故に、政府はラーティニアの皇女と、親日的な態勢を見せた国の王族を招いて、地球側になびく国を築き上げる事とした。
そうして誕生したのが、アルノシア公国であった。表向きにはラーティニアの下で新たに建国された国、という事になっているが、実際のところは日本の傀儡国家であった。
ともあれ、こうして『アティリア』と呼ばれる大陸に、地球の文明を波及させる事となる存在が生まれたのである。
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