スター、輝け(9)
攻撃の合間を埋めて仕掛けたボズマ・グテナーの斬撃は悪くなかった。ただし、カタストロフが駆体を振り向かせた途端、足が動かなかったのはいただけない。跳躍回避に特化した彼の意識が次の動作を遅らせた。
結果として真正面からブラストハウルを喰らう。今度は反応して機体を浮かせることで衝撃を殺せた。そして、隙間が生まれてしまう。ヴァラージの足を狙って攻撃テンポを狂わせていた『レッグハンター』ベス・オブリガータが標的にされる。
「ばかぁー!」
「ごめんよー」
慌てて身をひるがえしたベスのアームドスキン『レイ・ソラニア』を追って生体ビームが走る。地面を穿った白光は大地を裂き、断面を赤熱したガラスに変えてしまっている。沸騰する赤い筋からどうにか
(完全に封じ込めるなど不可能だ。ヴァラージの攻撃は多彩すぎる)
グレオヌスは鼻面に皺を寄せ、耳を後ろに寝かせる。
(生体ビームのリフレクタをものともしない貫通力。前のときもあれで街は壊滅状態になった。推定射程距離は大気圏中でも八千mを超えてる)
現在の位置からもすでに居住ブロック側に入るのは控えている。一番の懸念点はそれが人の住む街へ流れていくこと。ましてや街中で発砲されようものならば。
(避難エリアを超えてしまうかもしれない)
とてもではないが、なんの対策もなしに街中を通すわけにはいかない。クロスファイトドームまでのわずか五千mの間だけでもどれほどの被害を出すだろうか。それをアームドスキンの立ち回りだけで防ぐのは無理だと考えていた。
(ミュウは撃たせればいいって言う。僕たちが受ければブレード系の防御ができるから)
グレオヌスのブレードガード、ブレードスキン、ミュッセルのブレードナックルで分散させる。事実、今はそれ以外の対策はない。だが、たった二機で全てを阻めるか? 答えは否である。100%はあり得ない。
(なにか有効な策を講じなければ)
無くはない。彼はそれを知っている。ただ、現状
「足が鈍いな。どうした?」
女帝ユーシカが危惧している。
「なんでも」
「そうか? 私の剣技に呆れて次を考えているのかと思ったぞ」
「いいえ、あなたの実力は必要十分です。カタストロフを動かせているでしょう?」
間違いではない。
「それは十分とは言わないな。この怪物を撃滅するに足りないと言っているではないか」
「揚げ足を取らないでくださいよ」
「ならば迷うな。そなたなら見切れよう」
女帝はグレオヌスの実力を認めてくれている。彼女のチームと合わせた戦力で撃破に至る道筋を作れと言っているのだ。
(無理とは言わない。でも、確実に誰一人失わないで済ませる方法は……ない)
彼の中の
ミュッセルと二人でなら考えられなくもない。攻撃の多彩さでは親友も負けていない。そこは自信がある。
ただ、今はその段階ではない。カタストロフを撃滅するのは環境を整えてから。作戦は道半ばなのである。
「また! なんでワンテンポ遅れるの、ボズマ・グテナー!」
メリルに怒られている。
「そうなこと言ったって
「当たらないよう動かしてんの。それをあんたはことごとく潰してくれちゃって」
「
エナミにまで責められている。
「覚悟を決めろ、ボズマ。一発喰らったくらいでは死なん、コクピットと機関部を除けばな」
「当たったら死ぬんじゃん! ユーシカちゃんまで勘弁してよー」
「一度死ねばその減らず口は治るだろう。行け」
エイクリンも容赦がない。チームが成り立っているのは、彼がそういう立ち位置だからだろう。サラやベスにも口撃されていた。
「もう少し踏み込まねば攻め切れんな」
「無茶はやめてください」
「そなたなら援護できよう?」
「そのキャラ、変える気ないんですね?」
ユーシカの中にしこりを感じる。『女帝』と呼ばれるのは、それを覆い隠すためのキャラ作りをしているからだ。グレオヌスも似た一面を持っているので敏感である。
(勝ち気に見せて死にたがりっていうのは困るな。こういう人ほど死なせたくないって思ってしまう)
心の中で苦笑する。
意に反して女帝の纏う空気が変わる。濃密な戦気が溢れ出てきたのがわかる。カタストロフも見事に反応した。
完全に目標に定めた攻撃モーションをする怪物。逆にゆったりとした動作で接近するユーシカ。放たれた生体ビームは彼女のブレードに吸い込まれた。
「誘いに乗るくらいには獣か」
「シュルシュルシュル」
警戒音にも変化が見える。
隙が見えるのは確かだが彼女に攻撃が集中するのは避けたい。グレオヌスも剣気を放って誘導する。
「そんなものか? 奴はもっと凄かったぞ」
ユーシカが誰のことを言っているのか察する。
「競うようなものじゃありませんよ」
「いや、この先に道があると思える」
「どうして!」
女帝はさらに戦気を強めた。カタストロフは迷いながらも彼女を向く。見定めて駆体をそちらに向けた。
(斬り込む隙をくれって言ったんじゃないのに!)
危機感が一気に募る。
『
システムアナウンスにグレオヌスは身を震わせた。
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