四天王フローデア・メクス(2)

 アリーナの観客は各所で大写しになった投影パネルに注目する。そこには中央のオープンスペースで向き合うフローデア・メクスとツインブレイカーズが。囲むように小型パネルが表示され、パイロット各人のリアルタイムの顔もうかがえた。


「真っ向勝負でくんだろな?」

 ミュッセルが皮切りに言う。

「変な小細工すんじゃねえぞ。俺たちに勝ったって堂々と言いたきゃ正面からこい」

「それでいいのか? 君らが今の機体で唯一敗北しているフラワーダンスに勝っている。結果は見えてるんじゃないか?」

「あの状態のビビたちに勝って自慢すんじゃねえよ」


(まあ、あたしたちがここにいるのなんて知らないでしょうけど)

 ダシに使われているビビアンはメンバーと見交わして苦い顔。


「果たしてそうか? オーバーワークだと言われてたのは知ってる。でもな、君らくらいの若さだと一晩眠ればだいたい回復するじゃないか。俺もそうだった。完璧じゃなくとも、80%以上のパフォーマンスはできていたはずだ」

 実質ナンバー2のエイクリン選手が言葉で牽制している。

「ハズレだぜ。せいぜい40%ってとこだったな」

「ブラフはやめるんだ。体力は回復してた」

「勘違いすんな。体力が回復したって頭が追っついてきてなかったんだよ」

 赤髪の少年は手をひらひらと振っている。

「だからって……」

「あいつらはな、タクティカルチームなんだよ。それでずっとやってきた。ほとんど集中力一本でな。精神疲労は簡単に抜けねえんだ。それも経験でわかってんだろ?」

「なにが言いたい?」

 目を細めて返している。


 ミュッセルはニヤリと笑う。誘導に成功したと言わんばかりの面持ちで。


「そのフラワーダンスが今、スタミナ訓練に明け暮れてる。次当たるときは、この前の三倍どころじゃなく強えと思っとけ」

 露骨な挑発をする。

「んで、万全のあいつらと五分にやった俺たちが相手なんだぜ。わかんだろ?」

「勝てるとでも?」

「負けねえと思ってんならうちの楽勝だ。そのつもりでいろ」

 獰猛な表情で挑み掛かる。

「無鉄砲な」

「そうとも限らない。締めていけ、エイク」

「ユーシカ、君までもか?」


 女帝の異名を持つパイロットが表情を変えず諌める。彼女はいつもルーチンワークのように戦闘をする。仕事と割り切っているかの如く。


「嘘ではない。個人差はあれど、あの時分は身体はできたばかりというところ。スタミナまでついてこないのは本当だ」

 同じ女性の観点で語る。

「だろ? そこを精神力でカバーしてんだが削られるとパフォーマンスはガタ落ちじゃん」

「語るに落ちたな。ここまで四天王との連戦をこなしてきた君たちも完璧とは言いがたいんじゃないか?」

「そいつもハズレだ。俺たちは身体も心も作り方を学んできた武術家なんだよ。チューニングは完璧だぜ」

 親指を立てて見せている。

「放っておけ、エイク。どっちが上かなど戦ってみればわかる」

「確かにね。虚勢でないと願おうか。そうじゃないと君が満足できないからね」

「おう、腹いっぱい喰らわしてやんぜ」


 前口上は終わりだろう。ファンサービスのパフォーマンスにしても長すぎるのはよくない。ミュッセルはそれなりに計算している。


(憎らしいくらいにね)

 これも勝負と楽しんでいるフシがある。


「両者、ウォーミングアップも十分というところ! 始めさせていただいてもよろしいでしょうか? よろしいですね? では、ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」

 リングアナの合図で試合が始まる。


 ゴング一番飛びだしたのはボズマ選手だった。軽く踏み切り、空中でスピンすると斬り掛かる。的は一歩前に出ていたヴァン・ブレイズだった。


「つまんない口上なんてしてないで、さっさとやり合おうじゃん。どうせ結果は見えてるんだしさぁ」

「ちっ、うぜってえな」


 ミュッセルがブレードスキンで弾くと脇に着地。すぐさまジャンプして背後へ。ステップを刻んで今度は縦回転すると振り返りざまに一閃をくり出す。


「あれ、邪魔なのよね。どこに跳ねるかわかんないから上も気にしてないといけない」

 記憶が蘇る。

「ボズマ・グテナー。元はスポーツ選手。球技から身体競技まで色々やってたみたいだけど、どれも優秀な成績を収めてるの。運動神経は優れているし、空間識も相当のもの。パイロットの条件としては悪くないんだけど」

「それを買われてドルステン社のテストパイロットだったみたいよ、エナ。キャリアとしては女帝より前から所属だったって話。戦闘能力でエースの座を譲ったけど、他なら彼がエースでもおかしくないくらい」

「フローデア・メクスは二枚看板なのよね」

 サリエリのデータも揃っている。


 女王杯決勝前のブリーフィングでは説明を受けていたのだが、試合が始まるときは思いだせる状態ではなかった。結局、いいように翻弄されて負けている。


「へいへい、ちょっと鈍いんじゃないかい。そんなんじゃ一方的に攻めてエンドだね」

「うっせえよ。跳ねるのが得意な虫か」


(変幻自在って感じ。でも、ミュウの前であれをやると一発で叱られる)


 ビビアンは共同訓練のときを思いだしていた。

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