四天王フローデア・メクス(3)

「あれ、やると速攻で叱られちゃうのよね」

「ミュウもグレイも怒るのにぃ」


 サリエリとユーリィもしみじみと言う。フラワーダンスメンバー皆がビビアンと同じ目に遭っている。敵手を前にして基本的にはジャンプは厳禁だと。


「相手を崩しもせずにジャンプしてみろ。ただの的だ。特に跳ね上がり際はな」

 ミュッセルたちは口を酸っぱくして指導した。


 観戦していると、ボズマ操るレイ・ソラニアがヴァン・ブレイズの前でジャンプした。その瞬間、踏み込んだミュッセルが瞬速の正拳を放つ。空中の機体を容易に捉えて弾き飛ばす。


「うぐっ! く、読まれたか」

「やってろ」


 瞬間的なのでリクモン流の一撃ではない。ダメージはそれほどでもないだろう。


「ダメージ小さくても確実に当てられるとね」


 ボズマ機は再び跳ねて背後を取ろうとする。しかし、回転しながらの斬撃は上半身を揺らしただけで回避され、強烈な後ろ蹴りに見舞われる。


「ごはぁっ」

「今度は効いたろ?」


 地面の上を転がる。バイタルロストは免れたようだが、すぐには立ちあがれない。ビビアンは同じことが我が身にも降り掛かったのを思いだす。


「その気になれば空中でだって回避はできるじゃない」

 当然、最初の頃に訊いたことがある。

「できなくもねえな。やってみっか?」

「避けてみせるわよ」


 生身では不可能だがアームドスキンでのこと。彼女は反重力端子グラビノッツを重量ゼロの状態にして回避を試みる。端子突起ターミナルエッジで重力に対して反発力を生みだし攻撃を躱そうとした。


「はぅ……」


 一瞬で失神しそうになった。慣性力を相殺されている機体は反発力のままに加速する。スピードはゼロから瞬時にマックスまで変化した。その所為で視界はブラックアウトしている。

 反重力端子グラビノッツは搭乗しているパイロットにも効果を有する。ただし、機体に対する効果より小さい。その差が人体に対する慣性力としてダイレクトに伝わる。結果、パイロットはまともではいられない。


「こんなに……」

 胃から逆流しかけるものを我慢しながら言う。

「重力下だとギャップが凄まじいんだよ。そのまんま身体にくる。一発で気ぃ失うぜ」

「これほどまでとは思わなかったわ」

「宇宙空間はまだマシなんだ。反重力端子グラビノッツは身体にも結構効いてくれる。ところがよ、重力下はそうはいかねえ」

 引き起こしながら説明してくれる。

「常に重力に捕らわれているからだって言われてるね。それだけじゃ説明できない点もあるんだけど、反重力端子グラビノッツの特性とされてるんだ」

「そうなんだ、グレイ」

「だから不用意にジャンプすんな。俺ならほぼ確実に当てていくぜ」


 実践で明確な理由が示される。彼女たちメンバーも自身の身体で味わうと納得するしかない。


「こう考えるとリモート式アームドスキンとかAIコントロール無人機とかのほうが戦闘力高い気がしてきた」

 慣性力に耐えられないパイロットが不要になる。

「リモート機なんてターナミストで即無力化だぜ?」

「AI操縦機はAI戦闘パターン解析システムで即座に撃破されるよ。人工知能は創りだすよりパターン蓄積と分析のほうが得意だからさ」

「欠点あるわよね。そうじゃなきゃ人間が機動兵器に乗る理由なんてないもん」

 少し考えればわかる。

「結局は人間以上のものを人間が作れるわけねえんだよ。ま、お陰でこんなに楽しめるんだがな」

「あんたに都合のいいようにできてる気がして面白くない」


 訓練中にそんな会話を交わしていた。なのでフラワーダンスも二人が禁じた白兵戦距離での跳躍をしない。しかし、ボズマ機は性懲りもなくくり返す。


「うぎぃ! なぜぇ!」

「なんでって、当てるの楽だからに決まってんじゃん」


 悠々と打撃を重ねていくミュッセル。本当にただの的に成り下がっているのに気づけないのだろうか。


「なんで当たりにいっちゃうんにぃ?」

 ユーリィは不思議そうだ。

「ボズマ選手ってスポーツ畑の人でしょう? あのジャンルって派手なジャンプとか当たり前だもの。身に染みついてるんじゃないかしら」

「にゃるほどー」

「ミュウたち武術家の観点からすると愚行に見えるでしょうね。その教示を受けてるあたしにも馬鹿っぽく見えちゃうもん」


 エナミやビビアンの説明で、ピンときていなかったユーリィも納得する。グラビノッツ出力は最低限に。常に足を地につけて戦うこと。それができていればヴァン・ブレイズのように姿勢や足捌きで回避は可能。いつも心がけるようにしていた。


「でも、それだけですまないのが試合なの」

 エナミが冷静に言う。

「狙われる」

「そうね、ウル。あの人が『レッグハンター』って呼ばれる理由」

「ミュウにとってはいやらしい攻撃よね」


 地面ぎりぎりを這うようにビームが走る。ヴァン・ブレイズの足を払うが如く。ミュウは着けていなければならない足を動かされてしまう。


「ちっ、面倒くせえ」

「ははは、これがチームプレイというものじゃん」


 障害物スティープルの奥、うつ伏せになって狙撃姿勢を取っているレイ・ソラニアはサラ・シクレン選手のもの。彼女は伏せ撃ちをメインに使う砲撃手ガンナーだった。


(これだとミュウも空中戦を余儀なくされちゃうかも)


 ビビアンはこれからの展開を危惧した。

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