ストラグルフィーバー(2)
オッチーノ・アバランの
(適当にいなしていればミュウがエレインを片づけるだろう。無理をする必要はない。まだ全力で動かせるとは冗談でもいえないレベルなんだから)
様子をうかがいつつ思う。
レギ・ソウルのブレードは14mとレギ・クロウより2mも長い。間合いの違いは戸惑うほどではないが掴めない一因でもあった。それもマスターまであと一歩というところ。
(父上なら手こずることもない。専用にチューニングしたアームドスキン……、いや、そんな言い訳情けないだけか)
跳ねた剣先がブレードとかち合って紫電を散らす。相手の間合いにさせず、センタースペースの端まで引っ張ってこれた。
「四人もこっちに来てて大丈夫ですか?」
「今日ばかりは邪魔するとあとが怖い」
「なるほど」
警戒されるとともに足留めされているのだとグレオヌスは理解した。
◇ ◇ ◇
意識の金線に合わせて肘を飛ばす。拳はビームコートが削れた白い粉を撒き散らしながら逸らされる。カウンターで入れたヴァンダラムの拳は首の下あたりを打った。エレイン機はたたらを踏んでよろめく。
「んっく! 痺れるぅ」
「病院に行け。てめぇ、脳に問題出てんぞ」
衝撃が脳を侵す障害も少なくない。脳と首の問題はアームドスキンパイロット共通の持病みたいなものである。治療を受ければ完治するがコクピットに戻れば再発する。
「こんな感覚、捨てられるもんかい」
「はぁ……。引導渡してやんないと重大な労働災害になっちまうな」
クロスファイト運営が困ることになる。自走担架でそのまま病院まで送り込むのが正解な気がしてきた。
「よーし、わかった。今日はとことん相手してやる」
「嬉しいねぇ。ずっとこの時間が続けばいいのにさぁ」
女性に言われて悪い気がする台詞ではない。ただし殴り掛かって来なければの話である。流星の如く流れる戦気の金線を弾きつつ、ミュッセルはエレインが希少種であれと天に祈る。
「あっふ」
「変な声出すんじゃねえ!」
ボディど真ん中に決まった肘打ちはコクピットまで衝撃を伝えているはず。それでも欠片の躊躇もなくまた近づいてくるのが理解できない。
(こいつ、バイオレンスドランカーか)
加虐、被虐ともに酔う人種がいると聞いたことがある。思春期少年同士の馬鹿話の一つで、都市伝説的なものだと思ってきた。しかし実例を見ると否定しきれない。
「違う病院に放り込んでやったほうがいいような気がしてきたぜ」
「ベッドがあるとこならどこでもいいよ。あんたとあたしは相性いいと思うんだけどさ」
踏み込みが深い。ほとんどヴァンダラムの股の間くらいまで摺り足が入ってきている。それだけ本体も近くにあり、殴られに来ているかのようだ。
(くっそ、逆に芯が作りにくいぜ。決定的な一打を食らわせられねえじゃん)
肩を掴んで膝を飛ばす。肘を振りきれば頭が跳ねている。それでも下がるということを知らない。
大振りな右拳を掴み取る。左も同様に押さえた。そのまま押し切ろうと前傾になっている。
「っだらぁ!」
「ひゃあー!」
嬉しそうな悲鳴を無視して頭突きを入れる。ヴァンダラムの
拳を放りだして両腕で胴体をロックする。持ち上げて海老反りに投げる。エレイン機はすでに失われた頭から地面に突き刺さった。
「フロントスープレックスぅー! これは痛いー!」
リングアナも珍しい技を叫んでいる。
(恥ずいぜ。クロスファイトは格闘ショーじゃねえんだよ)
普通の実戦で決まるような技ではないのは知っている。ミュッセルも見様見真似でやってみただけなのだ。
「ああぁ、堪んない……」
「まだ立つのかよ。これで終わっちまえ。リクモン流奥義『
取れた時間と間合いで決め技に入る。ヴァンダラムの両肩から先が素人には見えないレベルで回転を始めた。エレイン機の装甲を挫滅し剥ぎ取っていく。連続した衝撃音の後には半壊したアームドスキンが残っていた。
「はふぅ」
膝から崩れ落ちるも這いずって近づいてこようとしていた。
「これでも……」
「お粗末ね。所詮はその程度」
知らない声がする。他の
「吠えるだけの駄犬はどこまでも駄犬」
奮起させようとしているのなら手遅れだ。
「メリル、あんた、コマンダーの分際でなにを!」
「そのコマンダーの誘導を散々無視してきたあなたに言われたくもないわ。勝てる試合をみすみす捨てて。プロならもっと利口に戦えるかと思ったのに、とんだ期待外れ。馬鹿らしいにもほどがある」
「使えるっていうから、たかがスクール生のあんたを拾ってやったっていうのに!」
口論になっている。
「スカウトしてきたのは社のほう。あたしの仕事を潰したのがあなた。それもわからなくて?」
「あとで……!」
「てめぇは寝とけ」
目いっぱいまで芯を通した一撃を低い位置から見舞う。見事にひっくり返ったアームドスキンからはもう声は聞こえない。全身から作動ジェルを噴きだした機体はダメージ超過の
ミュッセルはそれよりもオープン回線で話し掛けてきたコマンダーのほうが気掛かりだった。
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