ストラグルフィーバー(1)

 明けてレーネの日はチーム『ツインブレイカーズ』の翠華杯四回戦が行われる。フラワーダンスメンバーもアリーナにやってきていた。すでに入場コールも始まっている。


「ここは固いわよね」

 サリエリは確信を得ている。

「なにせ、フラワーダンスうちにさえ負けてる『オッチーノ・アバラン』だもの」

「真っ当に考えればそうだわ」

「うーん」

 ビビアンは賛同してくるがエナミが考え込む。

「見くびるのは問題だと思う」

「なんでに? 二人はあちきたちより強いんにー」

「編成の話。フラワーダンスはしっかりした後衛バックが二人いるけどツインブレイカーズにはいない。ほぼ同じ間合い、手数は二倍半なのは侮れない」


 コマンダーの言うとおりオッチーノ・アバランは格闘士ストラグル一人に剣士フェンサー四人という変則編成。両者とも近接攻撃型というツインブレイカーズとは相性が悪いとも思えてきた。


「間合いに差がないだけ一点集中される可能性はあるわね。でも、ミュウたちには機動力もある。それ以上にパイロットスキルもある」

 敵チームと大きく異なる点だ。

「差し引いてもプラスに振ると思わない?」

「そうよね。相手が変わらない、あのままのチームなら」

「でしょ? 心配要らないって。エナはどっちかというと、うちがツインブレイカーズと当たるときのことを考えてほしい」

 心からそう思っている。

「もちろん考えてる。今夜には本トーナメント表がアップされるから調整期間が取れるかどうかも判明する。そうしたら集中するから」

「そのスケジュールでよろしく。どうせ相手はあのエレイン・クシュナギよ? 変わりたくたって変われない」

「んで、彼女が変わらないとチームメンバーも変わらない。それがワンマンチームっていうものだもん」


 彼女もビビアンも楽観的に考えている。希望的観測が含まれていないといえば嘘になるが、固い試合だという予想は外れていないはず。なにより、ただの殴り合い以外に考えられない。


(荒れた試合になりそ)


 サリエリは周囲の興奮する観客の気持ちがわかった。


   ◇      ◇      ◇


「楽しみで楽しみで寝付けなかったよ、悪魔ぁ」

 ねっとりとした口調でエレインが告げてくる。

「うっせえよ。つまんねえ言い訳にすんじゃねえぞ? 今日はてめぇの根性を叩き直してやっから」

「いいねぇいいねぇ。リングはそういうとこじゃないといけないのさ。あんたもそう思うだろう?」

「一緒にすんな。俺様はてめぇみてえな狂犬じゃねえ。格の違いってやつを教えてやんぜ」


 エレインはソロ登録はしていなかったのでミュッセルとは初対戦になる。放し飼いにするほどアバラン社も愚かではなかったのだろう。契約を嵩に止めていたか。


「なんとでも言いなぁ。あたしはね、跳ねっ返りが大好きなのさ。あんたがチーム戦に来たって知ったときは絶頂しそうだったんだから」

 悪寒が走る。

「気持ち悪い女だぜ。しゃーねえ。もう二度と俺の顔なんて拝みたくねえって思わせてやんよ」

「うんうん、あたしに本物のエクスタシーを教えておくれ」

「ちっ、壊れてやがる」


 話すのも嫌になってきた。通信パネルのグレオヌスの顔など他人様に見せられないほど歪んでいる。狼頭は最も敬遠したいタイプであろう。


(相手させらんないな。こいつは俺がぶっ潰すしかねえ)

 そこは最初から打ち合わせている。

(問題は剣士フェンサー四人だ。グレイは任せろって言ってる。大丈夫だとは思うが、ここのコマンダーが曲もんなんだよな)


 選手と違ってコマンダーのプロフィールは公開されない。本人の承諾があって紹介されている有名コマンダーもいるにはいるがマイノリティである。それを逆手に取ってエナミの家のことを隠しておけるのだが。


「さて、程よくアリーナも引いたところで試合を開始してよろしいでしょうか?」

 リングアナが茶々を入れる。

「ではお待ちかね、翠華杯四回戦第十二試合を行います。ゴースタンバイ? エントリ! ファイト!」


 盛り上がりに欠いた妙なテンションで試合が始まる。ミュッセルが心配なのは主にグレオヌスのほう。不気味な曲者コマンダーと同時にレギ・ソウルを投入した戦友のことが気掛かりだ。


(実戦レベルまでは持っていけたとは言ってるがどうだ?)


 様子を見つつフォローしたいところだが、やはり冒頭からエレインのアームドスキンが突っ込んでくる。受けにまわらざるを得ない。彼女は侮っていい腕前ではない。


「あたしと遊びなぁ!」

「うざってえな!」


 技術もなにもない。ただしパワーと回転力はある。それが意外にも厄介で、下手に受ければ機体は体勢を崩してしまう。エレインにやられているパターンはほぼそれが全てだといってもいい。


「あんたと拳で語り合うのはピロートークより感じるよ!」

「知るか! 健全な青少年につまんねえもん吹き込むんじゃねえ」


 次々と襲い掛かってくる拳を捌く。それに時間を取られているうちは奥義も使えない。それ以上に実力で打ち勝たねばこの敵は納得しないだろう。


 ミュッセルは指先を鉤爪にした手刀で拳を叩き落とした。

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