戦い迫る

レギ・ソウル

「んで、置き土産がこいつなわけ?」


 ミュッセルの前の基台には新しいアームドスキンが起立している。最初からグレーカラーに塗られているところをみると、息子の調子次第で置いていくつもりだった機体らしい。


「使えんのか?」

 戸惑っているのはグレオヌスも同じ。

「乗ってみないことにはさ」

「そら当然だ」

「どうしたもんだい?」

「俺に訊くなよ」


 狼頭の少年曰く、レギシリーズの新型アームドスキン『レギ・ソウル』の存在は知っていたらしい。ただし、母のホールデン博士が父ブレアリウス用に設計していると認識していたそうだ。


「まさか、僕にも渡す気があったなんて」

 額を指で押さえる。

「ゴリゴリの実戦用アームドスキンってな雰囲気じゃねえか」

「間違いなくね」

「おかしな話じゃねえがよ」

 基本の戦闘スタイルは親子共通していると感じている。

「確かにレギ・クロウは練習機だったんだ。もちろん実戦にも耐えうる基準を満たしていたけど、元は父の使っていたレギ・ファングを重力波グラビティフィン仕様にバランス調整して再設計したアームドスキンだったから」

「普通に戦争に投入してた機体をブラッシュアップしたのを練習機と呼ぶか?」

「返す言葉もないけどさ」


 設計思想は星間管理局で採用されている『コムファン』と同じもの。一世代前とみなされているが、まだ一線級のアームドスキンである。


「お使いになられたほうがいいですよ」

 後ろに来ていたマシュリが珍しく勧めてくる。

「ええ、せっかくの母の気遣いですので。使いこなせるかどうかはわかりませんが」

「いいえ、違います」

「はい?」

 彼女の言わんとしているのは別らしい。

「このレギ・ソウルは一部ヴァンダラムと同じ駆動系を組み込まれております。テストは行っていますが、搭乗者の違いでどのような特性を見せるか試してみたいのです」

「おい、あれを使わせたのかよ」

「まだ公開はしませんが、使うべき人物には使っていただきます」

 ミュッセルは難しい顔で見あげる。


 グレーベースのアームドスキンはレギシリーズと呼ばれるようにレギ・クロウと共通した特徴を有している。頭部は獣相を示すが如く縦長に伸びている。まるで口吻マズルを現す形状だ。

 上半身、特に肩から腕にかけての駆動部が強化されていて構造が大きい。ところどころに端子突起ターミナルエッジも配置されているので棘が生えているようにも見える。それが、いかつさを助長していた。


「ふー……」

 整備コンソールを使って設計図を読みだす。

「肩、腰、肘もか」

「どこに採用するかはデードリッテに任せております。基礎設計者は彼女なので」

「そりゃそうだろうけどもよー」


 3Dモデルから装甲を剥いでいき部分的に拡大ピンチして確認する。駆動系のバランスはきちんとしていた。デードリッテは『銀河の至宝』と呼ばれるだけのことはある。


「こいつは親父さん専用に組まれたわけじゃねえぜ」

 それが読み取れた。

「まさか。嘘だろう?」

「嘘じゃねえって。見てみろ。こいつはブレードスキンだ」

「腕のこれが?」

 肘近くに配置されている発生器エミッタを示す。

「生粋の剣闘技使いの親父さんに必要なもんか? 違うだろ。むしろ必要なのはお前のほうだ。このへんはグレイ仕様になってんだよ」

「母上はそんなことを。ちょっと驚いてる」

「なに言ってんだよ。息子を思ってのことだろ」


 後ろをまわして尻に踵を飛ばす。間抜けな親友に気合を入れねばなるまい。


「っと、膝にも入ってんな。豪勢なこった」

「そのあたりも格闘を意識したグレオヌス仕様になっておりますね」


 膝にも短い円筒形の機構。一見して超電導ステッピングモーターのように見えるが違う。それはミュッセルがヴァンダラムに搭載しているのと同じ駆動機だ。フレームとの接続方法が異なる。

 周囲を固めるシリンダ類も工夫の跡が見られた。単品での出力に不安があったのではなく、フレーム強度に対する負荷の緩和が目的だと読み取れる。要はジェルシリンダを緩衝装置ダンパーのように配置していた。


「足回りもかなり力入れてんな」

 マシュリの言うとおり格闘を意識してのことだろう。

「そうなのかい?」

「足首もでかいだろ。並べてるシリンダ本数が普通の倍近い。機体重量はむしろ軽くなってんのに、こんだけ放り込むのは異常だ」

「注力してる?」

 設計思想の問題である。

「こいつはホライズンと変わんねえくれえ粘りがあんぜ。考え方が違うだけで効果は一緒だ」

「出力的には上と思われます。それを企図したものかと?」

「うう、母上の全力を感じる」


 他に共通点といえば大きく張りだしたヒップガードくらいか。これは内蔵されているブレードグリップが多い所為である。彼ら剣士にとっての生命線。

 そのブレードグリップも二回りは大型化している様子だった。展開する剣身はこれまでのものより長いと思われる。構造的に彼の得意なパーツではない。


「いいけど。いや、よくないか。君が設計した駆動機ってやつ? 勝手に使ってよかったのかい?」

 心配になってきたようだ。

「わたくしが提供したので問題ありません」

「俺もかまわねえ。ただし、維持がなぁ。まだ見えてねえ」

「メンテに問題が?」

「そこまでじゃねえが……。しゃーねえ。ついてこい」


 ミュッセルは実物を見せないと話にならないと判断した。

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